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「さばの缶づめ、宇宙へいく 鯖街道を宇宙へつなげた高校生たち」 もの作りのときめき、大人も呼応

 高校生が作ったさば缶が宇宙食として使用されるまでの14年を、指導教師と地元出身ライターが描いた物語だ。舞台は教育困難校と呼ばれた福井県立小浜水産高校(現・若狭高校)。きっかけは同校のさば缶作りにNASA(アメリカ航空宇宙局)の衛生管理基準を取り入れたことだった。荒れていた教室で、生徒が呟(つぶや)く。「宇宙食、作れるんちゃう?」

 その言葉を聞き逃さなかった一人の教師が開発の模索を始め、彼の勢いに乗せられる形で多くの大人が関わっていく。同僚教師、地元住民、JAXA(宇宙航空研究開発機構)職員、衛生管理の専門家。特にJAXA職員の「若狭の鯖(さば)街道を宇宙までつなげてほしい」というエールは、高校生たちの心に火をつけた。

 だが開発は簡単には進まない。地域のトップ進学校との統合で学校存続の危機も訪れる。それでも、生徒の中から自発的に「宇宙食」の研究テーマが再浮上し、後輩にバトンが渡されていく。高校生と大人の熱いハートが呼応し、さば缶が宇宙に届く場面はドラマチック。教育ジャンルの本としても読めるが、地域を大切にしながら工夫やアイデアで困難を突破していく様子は、もの作りへの純粋なときめきが詰まっている。=朝日新聞2022年2月19日掲載