ISBN: 9784296000531
発売⽇: 2022/01/21
サイズ: 19cm/254p
『Unlearn 人生100年時代の新しい「学び」』 [著]柳川範之、為末大
陸上の世界大会でメダルを獲得し、いまも日本記録を保持する為末大は、競技から多くのことを学んだ。例えばそれは目標を立て計画通り行うこと。そして自分の力でやり切ること。ところが陸上競技の世界を引退し、ビジネスの世界に転身すると、それらの学びが通用しない。
陸上競技のルールと違い、社会状況は日々変わる。だから計画を立てても、その通りには進められない。チームワークでは他者に頼ることも大事なのに、自分だけの力でやってしまおうとする。当時の為末は、なぜ自分はうまくできないのかと、落ち込む日々を過ごしていた。
だが為末は、いまなら何が原因だったのか分かるという。前の世界の学びを引きずり過ぎていたのだ。とくに陸上競技では成功し、自分に自信もあった分、変化できなかったのだ。
そこで出てくるキーワードが「アンラーン」。これまでに身につけた思考のクセを取り除くことだ。為末の場合は、緻密(ちみつ)に計画を立て行動することや、自分の力だけで問題を解決しようとすることが思考のクセであった。それらは陸上競技という環境に適応した、パターン化した思考である。成功体験を生んでもいる。だが新しい環境においては、適応を阻害する大きな要因となる。
社会環境は変わり続けるし、常識もうつり変わる。人生100年時代において学び続けることは不可欠だ。ところが学びの文脈では、知識や情報を得るという、「インプット」の重要性ばかりが強調されがちだ。しかしアンラーンを、人によってはインプット以上に意識せよというのがこの本のメッセージだ。すでに成功体験をもっている人ほど、過去の環境への適応は高かっただろうから、アンラーンは大切だ。
この本にはアンラーンの必要度が分かるチェックリストがある。例えば、「以前はこうだった」「こういうときはこうするものだよ」とすぐに前例を持ち出す人は、アンラーンした方がよいにプラス1点。どんなことにもいちいち驚かず、「そんなこと当たり前」と考えがちなのも、やはりプラス1点。そしてアンラーンの実践に何が重要かというと、「人の話を最後までちゃんと聞く」ことなのだという。人の話の途中で「要はあれと同じようなものか」と勝手に決めつけないということだ。
柳川範之はアンラーンする理由として「可能性が広がって楽しい未来が拓(ひら)けますよ」という。そしてアンラーンには読書が有効というのが、柳川と為末の共通見解だ。いったん頭を空っぽにして、自分をニュートラルにする作業を、読書は本質的に含んでいるからだ。
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やながわ・のりゆき 東京大教授(経済学)。『40歳からの会社に頼らない働き方』など▽ためすえ・だい 1978年生まれ。男子400㍍ハードル日本記録保持者。現在は執筆活動や会社経営を行う。『走る哲学』など。