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武田砂鉄「開局70周年記念 TBSラジオ公式読本」 正義を説かずに思いを語る

 「そんなに簡単に書けると思うなよ」。2021年12月3日「アシタノカレッジ」(TBSラジオ)で「大人がなりたい職業ランキング」の1位が「ライター」だったことでそう言い放った、パーソナリティーを務める“ライター”武田砂鉄。その話の流れで発売が告知された大著である。取材で目立っていたという、毒蝮三太夫曰(いわ)く身長185センチの「ひょろ長い彼」。発案者としてインタビューと執筆だけでなく出版社時代のスキルから責任編集も担っている。

 民放の雄であるTBSラジオ開局70年の証言集。表紙に名を連ねる現役パーソナリティーが中心となって構成されているが、読後は表紙には居ないが130回以上その名が登場する永六輔がまず浮かぶ。「おかしいと思ったことはおかしいって言おう」というマイクの前に座る矜持(きょうじ)は後輩たちに引き継がれているが、SNS世代の帯番組パーソナリティーには意外な共通点がみられた。「(『よくぞ言った!』より)『なるほどな』がいいですね」(荻上チキ)、「『学級委員じゃねえぞ、この野郎』って感じです(笑)」(宇多丸)、「気をつけていることは、本音に価値を置かないっていうことなんですよ」(ジェーン・スー)。これが正義と説き伏せるのではなく、リスナーに思いを語る。現代ラジオで「カリスマ性」はノイズにしかならないことが読み取れる。

 そんな「カリスマ」や「帝王」と呼ばれる害もネタにする伊集院光から、本書の出版後に朝の帯番組終了が発表された。残念だが、「166時間の準備と2時間の本番」からなる深夜ラジオは今後も楽しみである。

 その伊集院に「YouTubeやClubhouseが流行(はや)るたび、『ラジオ的なものはこれで代価できる』という乱暴な意見を見かけて、苛立(いらだ)ちながらも動揺してしまいます」と私見をぶつける武田。第一級のラジオの声の主たちを掘り下げた作者ならば堂々と言えばいい。「そんなに簡単に喋(しゃべ)れると思うなよ」と。=朝日新聞2022年3月5日掲載

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 リトルモア・1760円=5刷5万部。21年12月刊。幅広い年齢層に読まれている。番組の思い出などをつづった読者からのはがきを見ると、リスナーの熱量に驚くと担当者はいう。