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「幕末社会」書評 「仁政」と「武威」はいかに崩壊したか

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2022年04月02日
幕末社会 (岩波新書 新赤版) 著者:須田 努 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784004319092
発売⽇: 2022/01/24
サイズ: 18cm/265p

徳川体制を支えていた仁政と武威の揺らぎ、広がる格差と蔓延する暴力、頻発する天災や疫病…。先の見えない時代に、動き出した百姓、自己主張を始めた若者、新たな生き方を模索した女…

「幕末社会」 [著]須田努

 本書は、江戸時代を通底する政治理念を「仁政」と「武威」の二つだとして、この理念が江戸末期にいかに揺らぎ、崩壊していったかを分析している。
 江戸末期になると政治システムもいくぶん制度疲労を起こしていた。飢饉(ききん)が深刻になった天保7年の甲州騒動などにそれが表れている。この打ちこわしの中心は悪党と呼ばれた無宿の若者だった。暴力を抑制していた百姓一揆の作法は崩壊したという。
 より大きな社会変化をもたらしたのはペリー来航(嘉永6年)だが、将軍跡継ぎ問題が絡み、武威は崩れていく。やがて水戸藩による尊王攘夷(じょうい)思想が前面に出てくる。この思想を軸に、日本の進むべき方向性をめぐり、あらゆる階層を巻き込んでの争闘に入っていく。
 本書はそうした事実を具体的に人の動きで説明している。それぞれの研究分野の検証内容について敬意を表しながら引用しており、研究者の礼儀に触れることができるのも心地よい。