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なないろさんの絵本「ちくちくとふわふわ」 言葉の持つイメージを親しみやすいキャラクターに

文:澤田聡子 

卒業制作でつくった初めての絵本

——言われたら傷つく「ちくちく言葉」と心をあたたかくする「ふわふわ言葉」。それぞれの言葉が持つイメージを、かわいらしいキャラクターで表現し、小さな子どもでも分かりやすい絵本にした『ちくちくとふわふわ』(CHICORA BOOKS)。読者の口コミでじわじわと人気が広がり、ベストセラーとなった本作は、作者のなないろさんが、絵本の学校の卒業制作でつくった初めての絵本だ。

言葉の力をキャラクター化した「ちくちく( Spiky)」(左)と「ふわふわ(Fluffy)」。『ちくちくとふわふわ』(CHICORA BOOKS)より

 子どものころから絵本に囲まれるようにして育ち、絵本を卒業する年齢になっても、ずっと宝物のように読み続けてきました。絵本をつくりたい、と思うようになったのは、教材や知育玩具をつくる会社を退職し、子育てするようになってから。「子どもたちの小さなころのちょっとしたエピソードを、大好きな絵本の形で残せたらうれしいな」と思い、絵本の制作を一から学べる「ウーマンクリエイターズカレッジ(WCC)」の門を叩きました。

 WCCは非常にカリキュラムがユニークで、絵本制作はもちろん、企画のつくり方から出版社への営業、フリーランスの契約や税務まで、クリエイターとして独り立ちできるようなノウハウを、1年かけて教えてくれるんですよ。そうした背景もあって、同期はプロ志向の人ばかり。「家族の記録のために絵本をつくりたい」と思って入学した私は驚く一方で、同期メンバーの強烈な個性と絵本にかける情熱にとても刺激を受けましたね。当初は家族の思い出となるプライベートな絵本をつくりたかったんですが、卒業制作として皆の目に触れるものなら、家族以外の読者のことも考えた題材にしようと頭を悩ませていました。

直観的にイメージできる「ちくふわ言葉」

——絵本づくりのヒントとなったのは、料理教室の講師から聞いたひと言だったという。

 当時、食を通じた心と体の健康などをテーマにした食育を学ぶ講座に通っていたのですが、そこで、先生が話してくれたのが「ちくちく言葉」と「ふわふわ言葉」。罵倒するよりも優しい言葉をかけた植物のほうがすくすくと成長する、という実験ってありますよね。料理や味噌造りも同じで、「おいしくなあれ」と気持ちを込めて、“ふわふわ言葉”をかけながらつくったほうがおいしくなるよ、と先生が教えてくれたんです。

 「ちくちく言葉」と「ふわふわ言葉」を耳にした瞬間、これはわが家の子どもたちにも伝えたい言葉だな!と、ピンときました。悪気はないものの、ストレートに思ったままを口に出す息子と、そんなお兄ちゃんにむかっ腹を立て、つい言い返してしまう負けず嫌いの娘。「売り言葉に買い言葉」の見本のような二人のきょうだいゲンカには、ほとほと悩まされていて。

 でも、「ちくふわ言葉」を使うことで、「そんな言い方、しなくてもいいじゃない!」と頭ごなしに叱らず、「今の言い方って、ちょっと“ちくちく”じゃない?」と穏やかに指摘できる。大人も子どもも、ひと呼吸おいてちょっとクールダウンできるんですよね。わが家では、「ちくふわ」が大活躍でした。

「そんなゾウ みたことない」というセリフは実際にお兄ちゃんが妹に言ってケンカになったものだそう。『ちくちくとふわふわ』(CHICORA BOOKS)より

英語に触れるきっかけにも

——道徳の授業で教材として使われることもある「ちくふわ言葉」だが、それを題材にした絵本は探しても見つからなかった。「私と同じように、必要としている読者がいるのでは」という思いから、絵本のテーマに取り上げることを決めた。

 専門的に絵を勉強したことがないので、「ちくちく」と「ふわふわ」のキャラクター造形には苦労しましたね。未就学児や小学校低学年がうれしさを感じるものって何だろう、と考えたときに浮かんできたモチーフは「はなまる」。対する「ちくちく」は、パッと見て分かるちくちく感を出しつつも、かわいらしさを感じられるキャラクターにしたかった。いろいろ試行錯誤した結果、小さな子でも直観的にイメージが湧くキャラクターに仕上がったと思っています。

『ちくちくとふわふわ』(CHICORA BOOKS)より

 ほかにも『ちくちくとふわふわ』の特徴は、日本語と英語を併記した「バイリンガル絵本」であること。国籍ミックスのわが家の子どもたちには、小さなころから、英語と日本語の絵本両方を読み聞かせしていました。小学校低学年までは海外で暮らしていたので、スクールで話題となるのは英語の絵本が中心。同じ絵本の日本語版がある場合は、英語版と併せて購入していました。そうした経験から、二つの言語を載せたら「お得感があるかな」と思って(笑)。

 親子で読むときは「ふわふわ、って英語では“Fluffy”って言うんだね!」など、少しでも英語に触れるきっかけにしてもらえればうれしい。英語が苦手でも、「なんて読むんだろうね〜」と気軽に楽しんでもらえればと思います。

寛容さと多様性への願いを込めて

——自身のお気に入りは、絵本のラストを締めくくるページ。大きく広がる虹と “ふわふわ”のもと、世界中の子どもたちが手をつなぎ、それぞれの言語で「ありがとう」と笑う。

 さまざまなバックグラウンドを持つ子どもたちに思いを馳せながら、大きな虹とたくさんの“ふわふわ”を描きました。悲しいことに「ちくちく」であふれることも多い世の中ですが、少しでも“壁”が取り払われた世界になるといいな、という願いを込めています。

『ちくちくとふわふわ』(CHICORA BOOKS)より

 多くの人の目に触れることは考えていなかった作品ですが、WCCがプレ募集していた「キャラクター絵本出版大賞」に出してみたところ、商業出版されることになり、最終的に多くの読者に届けることができました。ご家庭での読み聞かせだけでなく、幼稚園の先生や保育士さん、小学校の先生が教材として使ってくださることも多いようです。「絵本を読んで、言葉遣いや話し方を考えるきっかけになった」という声を聞くと本当にうれしいですね。

 今後は、学校などで読み聞かせるための大型本や紙芝居、「ちくちく」「ふわふわ」のキャラクターを活かしたグッズなども展開してみたいですね。『ちくちくとふわふわ』の世界をもっと広げて、私なりに少しでも、世の中に「ふわふわ」を増やすお手伝いができれば、と思っています。