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米軍統治下のアメリカ留学経験描く『「米留組」と沖縄』など藤田結子が選ぶ注目の新書2点

『「米留組」と沖縄 米軍統治下のアメリカ留学』

 山里絹子『「米留組」と沖縄 米軍統治下のアメリカ留学』(集英社新書・946円)は、数々の印象深い人生の物語を紡ぐ。戦後、親米的指導者養成のための米軍制度の下、沖縄から千人以上がハワイや米本土に渡り大学で学んだ。ある者は、白人が掃除しているのをみて驚き、沖縄では住民がアメリカ人の下で働いている構図に気づく。またある者は、アメリカ人から「沖縄は日本ではない」、日本から来た留学生から「東アジアの人種か」などといわれ、自分は何人かという問いに向き合う。留学経験者たちは帰国後、「米軍の親衛隊」とみなされ葛藤しながらも、自分の人生、そして沖縄の未来を切り開く。「米留二世」の著者による貴重な研究だ。
★山里絹子著 集英社新書・946円

『オッサンの壁』

 もう一冊も、「マイノリティ」の困難を照らし出す。佐藤千矢子『オッサンの壁』(講談社現代新書・990円)は、全国紙初の女性の政治部長が男社会を詳細に記す。自分が生まれた時から下駄(げた)をはかせてもらっていることに気づかず、「女性記者は得だ」とぼやく男性記者たち。著者は議員宿舎でセクハラにあい、20年以上たって思い出し涙をこぼす。どれほどストレスに耐えてきたのかと自分を重ねる読者も少なくないだろう。「オッサン」の壁は越えるものではなく壊すものだ、というメッセージが響く。
★佐藤千矢子著 講談社現代新書・990円=朝日新聞2022年5月14日掲載