1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 監察係と権力の暗闘に圧倒される「ブラッディ・ファミリー」 村上貴史が薦める新刊文庫3冊

監察係と権力の暗闘に圧倒される「ブラッディ・ファミリー」 村上貴史が薦める新刊文庫3冊

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『ブラッディ・ファミリー 警視庁人事一課監察係 黒滝誠治』 深町秋生著 新潮文庫 781円
  2. 『観覧車は謎を乗せて』 朝永理人著 宝島社文庫 770円
  3. 『楽園の真下』 荻原浩著 文春文庫 935円

 非合法な手段であろうととにかく関係者を操って真相への道を切り拓(ひら)く黒滝警部補と、彼の上司であり、正論を貫き通す相馬美貴警視を中心に据えたシリーズの第二弾が(1)。監察係として警察内の問題を探る彼らが今回狙うのは、女性刑事を自死に追いやった不良警官だ。彼の父は次期警察庁長官と目される大物。すべての行為を適法化できる権力を相手にした黒滝と相馬の闘いが熱い。知力体力組織力、脅迫に銃弾、お互いに死力を尽くした暗闘に圧倒される。一方で情報を集めて意外な真相に至る道筋もきちんとしている。必読にして一気読み必至だ。

 安全装置の誤作動で停止した観覧車が舞台の(2)。六つのゴンドラでそれぞれの物語が展開される。ゴンドラ内での刺殺事件を巡る謎解き、恋の告白、殺し屋による狙撃、などなど。六つのドラマが意外な結末を迎え、同時にそれらを結ぶ微(かす)かな糸が明らかになる。まだ二作目だが、設定と伏線の技巧は冴(さ)え、語り口は軽やか。要注目の書き手だ。

 (3)は、一言でいえば、巨大カマキリが孤島で大暴れする物語。十七センチのカマキリの取材と、連続自殺事件の調査の目的で島に渡ったフリーライターが、現地に住む野生生物研究者とのコンビでカマキリの巨大化の謎に挑み、さらに、暴れ始めたカマキリたちとの闘いに挑む。その謎解きは生物たちの生存戦略に則(のっと)っていてロジカルかつスリリング、そして巨大カマキリたちがもたらす恐怖はとことんリアル。しかも連続自殺事件とそれらがリンクしていて大満足。=朝日新聞2022年5月14日掲載