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矢部浩輔「Hirosuke Sculptures」 一筋縄ではいかないかわいさ

『Hirosuke Sculptures』から「Untitled」(2021年)

 「ヘンシン!」のポーズをとる少女や動物、遊具に乗り、着ぐるみ姿になる子供たち。これは、かわいい。

 だが、矢部裕輔(ひろすけ)(1972年生まれ)の彫刻は、一筋縄ではいかない。単純な顔つきで素朴さがある一方、荒々しい彫りにどっしりとした量感を備え、不気味さもたたえている。

 感性のおもむくままに自由に制作しているようにも見えるが、先日見た個展会場の映像の中では、主に硬いケヤキを素材に操作の難しいナタを使うこともあると明かしていた。マンガやアニメよりも、古い神像や土偶を意識しているとも。大学で彫刻を学び、抽象的な作風の時期もあったらしく、となれば、今の表現は、あえて扱いにくい素材や道具を使って、意識的に選ばれたということになる。

 東日本大震災を機に、人間とは何かをテーマにしているという。思えば神像とは、見えない存在に人の姿を与えたものだ。同様に、目には見えない人間や社会の奥底を問おうとしているのではないか。かわいく、でも暴力的で不気味な存在として。=朝日新聞2022年6月4日掲載