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キラキラしたい 澤田瞳子

 年齢を重ねると味覚が変わるというが、不思議に十代、二十代の頃から好きな食べ物が変わらない。その代わり変化してきたのは雑貨など身の回りの品の好みで、若い頃はあまり好みではなかったカラフルでキラキラした品についつい手が伸びる。このところハマっているのは、色鮮やかな花柄や水玉模様などが全面に印判されたポーランド陶器で、気に入った柄の品を見かけるたびに、一つまた一つと買い溜(た)めている。かつて、寒色系のシンプルなものばかり選んでいたのが嘘(うそ)のようだ。

 そんな中で近年、外出の折に見かけるたび、いいなあ、と溜息(ためいき)をつく品がある。それはこの十数年で急に目にする機会が増えた、お子さんたちの光る靴。歩くと靴底がLEDライトでカラフルに光る、あれである。

 私の小さい頃は当然、あんな靴は存在しなかった。歩いて面白い靴はかかとがキュッキュッと鳴るサンダルくらいで、どちらかと言えば底だけが厚ぼったくて歩きにくかった。加えて私には子どもがいないこともあり、あのキラキラ光る靴とは今までまったく関わり合うことなく人生を送ってきたわけである。

 可愛いなあ、私も履きたいなあとずっと思っているのだが、残念ながらあの商品は大半がお子さん向け。お店で問い合わせても大人向けの品はほとんど売られておらず、わずかにあったとしてもローラー付きのものばかりだ。私は日常的に、足元をキラキラさせたいのに!

 もし私が小さな頃からカラフルなものが大好きだったなら、とっくにスパンコールのついた服や色鮮やかなカバンで身を装い、この年になってから光る靴に憧れることもなかったのかもしれない。「好き」はその時々で変化するものであるし、自分の本当の好みに気づくのにも時間がかかる。そう思うと自らの求めるものをタイミングよく選びとることは、案外難しいのかもしれない。――と思いながら、私は今日も靴屋さんの前でついつい足を止める=朝日新聞2022年7月27日掲載