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結城真一郎「#真相をお話しします」 謎と人間味、複合性に脱帽

 ミステリーの愉悦に誘う好短篇(たんぺん)集だ。読者はこれに、かならずワクワクして挑みかかる。まずはネット時代の利便ツールがいかにミステリーというジャンルと相性が良いのか、それを結城真一郎は実証してみせる。叙述面では、一旦(いったん)の解明に読者を導いたのち、さらなる意外性で読者を逆落としにかける。一種の凶悪さ。「騙(だま)された!」と歓喜にむせぶ読者も多いだろう。

 ちりばめられる伏線の、微妙な違和感そのものの味。読み始めてすぐに見定められる主人公は、やがて疚(やま)しさを漂わせはじめ、それが作品の謎と深く切り結んでもゆく。バッドエンディングながら懐かしいといっていい人間味も漂う。これら緻密(ちみつ)な複合性にこそ脱帽してしまう。

 計5篇収録。マッチングアプリを扱った「ヤリモク」では若作りの美男主人公自身が奇妙な恋愛動機をもっていた。そこから「主人公とは何か」という挑発的な問題が起こる。リモート呑(の)み会を扱った「三角奸計(かんけい)」は、このツール経験者ならチャット機能などに体感的なリアルを覚えるだろう。しかも旧友3者のあいだに意想外の不倫と殺意の物語が展開されてゆく。パソコン画面の限定性が、実際の操作場所の明示に至ると、演劇でいう屋台崩しの効果も出る。

 とくに充実しているのが、ユーチューブの人気コンテンツと、一見そぐわない島の子どもたちの取り合わせ「#拡散希望」(日本推理作家協会賞短編部門受賞作)。勧善懲悪とはならず、緊迫の渦中で終わる。ネット社会への一石。二人の少女のイメージがゆれる読後感も切ない。

 結城は初の長篇『名もなき星の哀歌』で新潮ミステリー大賞をすでに受賞している。こちらも「記憶の売買」というファンタジー的主題に、人物の入れ替えミステリーを融和させた意欲作だった。ファンタジーとミステリーという水と油の関係が高度に「乳化」していた。どんな長さでもどんなジャンルでも書けるというのは、むろん現代では書き手の勲章だろう。=朝日新聞2022年7月30日掲載

     

 新潮社・1705円=4刷6万8千部。電子版は4千ダウンロード。6月刊。「ミステリーを読み慣れない読者にも好評」と担当者。