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映画「さかなのこ」主演・のんさんインタビュー ジェンダーを超えた唯一の存在に

のんさん

男か女かはどっちでもいい

――原作『さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~』には、さかなクンの生い立ちから、家族とのエピソードや友人たちとの出会いまでが綴られていますが、特に印象に残っているお話はありますか?

 私が一番印象に残っているのは、さかなクンのお父さんのエピソードです。映画では三宅さんが楽しいお父さんを演じていますが、さかなクンの実のお父さんは囲碁棋士で、めちゃくちゃ厳格なんだけど、意外と突飛な人でもあるんだなというところが面白かったです(笑)。あとは、お母さんがさかなクンのことをずっと肯定し、尊重し続けているのが素晴らしいなと思いました。

――さかなクンをベースにした「ミー坊」という性別を超えた役のオファーを聞いた時は、どんなお気落ちでしたか?

 私自身はミー坊をやることにあまり違和感はなかったんですけど、映画を観る人が受け入れてくれるのかなという不安はありました。でも、最初の本読みに行った時、ホワイトボードに沖田(修一)監督の直筆で「男か女かどっちでもいい」と書かれた紙が貼ってあって、それを見た時にすごく勇気がわきました。「お魚好きのミー坊という人を演じればいいんだな」と自分の中で考えが定まったので、自信を持つことができました。

――性別のことはあまり意識せずに演じていたのですね。

 学ランを着ている時は「学ランのミー坊なんだよ」というところを見せなきゃいけないし、胸を平らにしたりと、外見は作っていきましたけど、男か女かは本当にどっちでもいいんですよ。あくまでも「ミー坊」として成立させるということを私も監督も考えていたし、女の子らしいわけでも男の子らしいわけでもない「ミー坊」という唯一のジャンルの存在を演じようと思っていました。

©2022「さかなのこ」製作委員会

――本作は、お魚のことが大好きで「普通」のことが苦手なミー坊が、社会の荒波に揉まれながらも自分の「好き」を貫く姿が描かれています。ミー坊を演じていて、共感したところや吸収したいと思うところはありましたか?

 どんな時でも「自分には魚しかないんだ!」と信じ切って、好きなものにまっすぐ突き進むところはすごく共感しました。「好き」を突き通すことで人生がいい方向に向かって成長していくというストーリーであり、役柄だったので、演じていても楽しかったです。

 吸収したいなと思ったところは知識欲ですね。私は演技が好きなので、色々な表現を盗もうという気持ちはあるけれど、知識を蓄えたいと思ったことがあまりなかった。ミー坊みたいに好きなことに関しての勉強をもっと頑張りたいなと思いました。

――「あなたはそのままでいい」と言い続けた母親や、何かと気にかけてくれる幼なじみのヒヨ(柳楽優弥)、釣りを通して仲良くなった地元ヤンキーの「総長」など、ミー坊の良さを見つけて手をさしのべてくれた人たちとの関係性がいいですよね。

 本当に素敵な関係ですよね。原作を読んでいても、さかなクンの「好き」のパワーがみんなをほんわかさせているのが伝わるし、さかなクン自体がそういう空気を持っている人だからこの作品ができたんだと思います。ミー坊のおかげでみんながいい方向に向かったり、自分の未来を決めていったりして、明るいパワーが周囲に伝わっていくのは演じていても幸せでした。

©2022「さかなのこ」製作委員会

――町の変わり者として不審者扱いされる「ギョギョおじさん」はさかなクン本人が演じていて、ミー坊の人生に大きく関わる重要な人物として登場します。「ギョギョおじさん」の存在をどう思われますか。

 ミー坊は小学生の時に「ギョギョおじさん」と出会えたから、ずっとお魚好きでいられたのかなという気がします。お母さんはミー坊のことをずっと肯定してくれていたけど、幼なじみのモモコ(夏帆)やヒヨは全肯定してくれているわけじゃないから、ミー坊にとって初めて自分のことを受け入れてくれた他人だったと思うんですよね。その存在ってすごく大きかったと思うし、自分よりもお魚のことを知っている人がいるという高揚感を子どもの頃に体験できるのはとても大切なことだと思いました。

自分がブレないために

――のんさん自身も芯がブレない方という印象があるのですが、何か秘訣はありますか?

 私は誰も自分のことを知らない時から「自分はいい役者になるんだ!」って信じきっていて、根拠もなく自信があったんです。オーディションに落ちても「たまたま今回がダメだっただけ」くらいに思っていたので、自分がブレないためには自己肯定が大事なのかなと思います。

 役者の仕事って、その人の良いところだけじゃなくウィークポイントやダメなところも活かされるから、結果、自分のことが全部好きになれるんです。ミー坊も勉強ができなかったり仕事がうまくいかなかったり、世間的にダメなところもあるけど、そういうところが人の面白い部分だし、映画になった時に惹きつけられる部分になるのだと思います。

――役者以外にも、音楽活動や創作活動もされていますが、そういうところでも自己肯定力の高さは活かされていると思いますか?

 そうですね。特に「のん」として活動するようになってからは、考え方も変わりました。それまでは「私は役者だから演じた役を見てもらえればいい」と思っていたところもあったんです。だから自分のパーソナルな部分は置いておこうという気持ちがあったんですけど、今は自分から発信したい、メッセージを届けたいと思うようになりました。

――それぞれの活動で伝えたい、表現したいことは変わってくるのでしょうか。

 アートも音楽も演技も、表現のベクトルが違うんですよね。演技は基本的に受け身で、監督が伝えたいことや脚本に書いてあることを体現するというのが大前提ですけど、アートや音楽は自分自身の中から発信してメッセージを作り出していくものなので、主体性のある届け方をしていきたいと思っています。

――ミー坊は好きな魚の仕事を求めて水族館や寿司屋で働いてみますが、中々うまくいかず迷走が続きます。「好きなこと」を仕事にすると思うようにはいかないこともありますが、のんさんが「好き」を貫くために大切にされていることを教えてください。

 好きなことを仕事としてやるには大変なことも面倒くさいこともあるけど、私の活動を見てくれている方たちに「どうしたら面白く思ってもらえるか」ということを大切にしているとすごく集中できるんです。それに、一緒にやってくれる仲間がいるとお互いの考えが拮抗するから、楽しく乗り切れますね。自分で考えたものや、やりたいことができるというのは幸せなことだし、他では得難い喜びがあります。

――のんさんは読書もお好きだそうですが、最近はどんな本を読みましたか?

 今、京極夏彦さんの「今昔百鬼拾遺」シリーズを読み始めたところです。元々京極さんのファンなのですが、なかでも「百器徒然袋」シリーズの主人公で、探偵の榎木津礼二郎がめちゃめちゃ好きなんです! この作品はその続編なので、気になって手に取りました。伏線回収されるまでがすごく長いので、今はそれを楽しみに読み込んでいます。