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民主化を求め続けた姿描く「ミャンマー現代史」など三牧聖子が選ぶ新書2点

『ミャンマー現代史』

 他国の民主主義や人権の危機への関心は持続しない。独裁者や軍事政権はそれを狙う。中西嘉宏『ミャンマー現代史』(岩波新書・946円)は、軍の圧政と国際社会からの忘却に苦しめられつつ民主化を求め続けたミャンマーの現代史を描き出す。2011年以降、民主化の進展を受け、日本はミャンマー支援を拡大した。経済的潜在力への期待や台頭する中国への懸念があった。しかし昨年のクーデター後、日本の政策は混迷する。著者は、経済開発を最優先とし、政情が悪化すると日和見を決め込むパターンからの脱却を強く求める。
★中西嘉宏著 岩波新書・946円

『韓国併合』

 森万佑子『韓国併合』(中公新書・946円)は、日本の視点から描かれてきた韓国併合を、大韓帝国の成立・崩壊の過程として描き直す。自身に無限の権力を集中させた国家を目指した初代皇帝高宗。日本の支配には多様な主体が抵抗したが、一丸となって皇帝を支えることはできなかった。日韓の史料の在り方に関する指摘も重要だ。近代日本は列強と結んだ不平等条約の改正を目指し、史実の記録やその保存方法まで条約体制の手法を採り入れたが、長く中華世界にあった朝鮮には、交渉の細部まで叙述した文書は残されなかった可能性が高い。史料的な制約の中、あくまで大韓帝国皇帝を主役に据えた本書が導き出す史実は重い。
★森万佑子著 中公新書・946円=朝日新聞2022年9月10日掲載