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おおでゆかこさんの絵本「プレゼント、あけてみて!」 発見が楽しい、しかけ絵本。相手を思いやる気持ちを贈り物に

文:日下淳子

プレゼントをあけるわくわく感を絵本に

――表紙から裏表紙にかけて、まるでリボンをかけたプレゼントのような装丁の絵本。おおでゆかこさんの描く『プレゼント、あけてみて!』(あかね書房)は、いろいろな動物たちが順番に贈り物をしていくしかけ絵本だ。「プレゼントこうかんを しませんか?」と書かれた手紙が届くところから始まり、ハリネズミくんはアリさんに、アリさんはモグラさんにプレゼントを渡す。「あけてみて!」とフラップをめくると中身が見えて楽しい気分になる。幼少の頃の遊びからアイデアを思いついた。

 幼少期は、よく母に向けてお手紙を書いていました。中に、自分で描いた絵を入れて渡すと、その手紙に母も返事を書いてくれたんです。あるとき、いいことを思いついて、弟への誕生日にプレゼントを隠して、『〇〇に地図があるよ』という手紙を出しました。その場所へ行くと、また次の場所へのヒントの手紙が見つかるようにしかけておいたんです。それから「手紙に書かれたヒントを辿って宝物を探しに行く」という遊びをよくするようになりました。冒険のようで、子どもながらにドキドキわくわくしていましたね。その時の経験をヒントに、この絵本を制作しました。

――ただ、しかけが楽しいだけの本ではない。ハリネズミくんは「アリさんたち、このごろはたらきすぎでつかれてる」と、アリさんがどんなものだったら喜ぶかを考えながら、プレゼントを選ぶ。アリさんへのプレゼントは、どんな重いものでも運べるミニカー。本当に欲しいものは、あけたときの喜びもひとしお! そんな様子が表情からよくわかる。

 子どもの頃、友達とのクリスマス会でプレゼント交換をしたときは、何が入っているか開ける時にわくわくしました。絵本の開くしかけで、そのわくわく感も感じてもらえたら嬉しいなと思っています。この絵本の中では、個性的な動物がたくさん出てきて、相手へのプレゼントも個性的なものばかりです。ヒトもみんな十人十色。子どもも相手のことを想像してプレゼントを選んでほしい、その根源として、いつも思いやりを持って相手に接してほしいという思いがあります。

穴掘り工事中のモグラさんへ、アリさんからのプレゼントは……

 実はこの物語は、友達が、ハリネズミくんのお誕生会をしようと企画するところから始まっています。最初にハリネズミくんに届いたお手紙は、1行ずつ色が違うんです。モグラさんやカメさんなど、友達一匹一匹が、1行ずつ書いたという設定なんですよ。子どもらしい字を書きたいと思って、いろいろ研究しました。最後のうちゅうじんさんはひっこみじあんで、友達になるきっかけを探していて、空の上でずっと見てたのかなっていうところも感じてもらえたらと思っています。一通のお手紙から始まるのだけれど、みんなで参加することで仲間の輪が広がるんだよってことも知ってもらえたらと思います。

 「プレゼント」がテーマということで、意外にも、クリスマスによく読まれているようです。カバーに包み紙とリボンをデザインしたら、何冊か積んで置いておくと、リボンが側面にも現れて、まさにプレゼントボックスのように見える!というものも出版してからはじめて発見しました。クリスマスの時期限定で、サンタ帽子のハリネズミくんが描かれたカバーも作っています。

めくるフラップにたくさんの発見をしかけて

――包みを開けるとプレゼント、窓を開けると流れ星……。しかけ絵本は、変化があって子どもたちに人気がある反面、作るのは大変な作業。少しでもフラップがずれると下の絵が見えてしまう。開いた後に見えるイメージも考えながら作っていく。何度も試行錯誤しながら、イメージを作っていったという。

 しかけはどれも作るのが大変でした。編集さんと、何度も何度も微調整しました。その頃やり取りしたメールは、山のように多かったことを覚えています。遠くにいるのに、まるで毎日会っている家族のような感覚でした。やっとできたと思って、切り抜いて実際に貼り付けてみると、少しずれていたりするんですよ。しかけの裏側まで描くのも苦労しました。開いた時の驚きや喜びを、紙面でうまく表現できた時は嬉しかったです。

 このしかけのフラップ部分は、製本所の方が手作業で貼っていくんですよ。重版が掛かるたびに、どんどん貼りがうまくなっていってビックリしました。ずれがなくピッタリ。そうやって最後の仕上げをしてくださる方がいるということで、さらにこの本が愛おしく感じられました。

プレゼント以外にもいろいろな形のフラップがあって、めくるたびに発見がある

 特に、表現するのが楽しかったのは、ヤドカリの老夫婦の家の中。クローゼットを開いたり、窓を開けたり、開くと何が出てくるかを考える作業も楽しかったですね。こういう細かい部分をあれこれ考えるのは、すごく好きです。ヤドカリは貝殻を自分で替える習性があると聞いて、おしゃれな貝をクローゼットに入れてみました。

 工作やものづくりは小さい頃から好きで、幼少の時から、飛び出す絵本やしかけ絵本のようなものを作っていました。母がずっと保管していたものを先日見つけて、私はこんな小さい時から作っていたんだな、それがいまにつながっているんだなと感じました。この頃から絵を描くことも見ることも好きでした。最初に出会ったしかけ絵本は、エリック・カールさんの『はらぺこあおむし』(偕成社)や、五味太郎さんの『まどからおくりもの』(偕成社)。本当によくできているなあと感心していました。ボロボロになっても母がきれいに補修してくれて、いまでも大事にして娘に読んでいますね。私の作ったこのしかけ絵本も、みなさんが大人になるまで読み継いでいってくれたら嬉しいなあと思います。

――絵本のほかにも、雑貨やファブリックなどにイラストを描いているおおでさん。絵からストーリーが始まり、空想の世界を遊ぶ作品を今後も作っていきたいという。

 枠にとらわれない自由な発想で絵本を作ることを目標にしています。水族館の絵を見て、ここにウォータースライダーがあったら……など、想像をふくらませているんです。かこさとしさんの『だるまちゃんとかみなりちゃん』(福音館書店)みたいに、空の上に世界があるとか、雲の上にプールがあるとか、そういう絵本を描きたいと思っています。4歳の娘が最近絵を描いているのを見ると、本当に枠にとらわれていなくて、うらやましいなあと思います。絵本を見ていて音楽がふと浮かんでくるような、そういう世界観がいいですね。大人も子どもも一緒に楽しめるような絵本をこれからも作っていきたいです。