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大白小蟹「うみべのストーブ 大白小蟹短編集」 寒そうなのに温かみ、心ほぐす

©大白小蟹/リイド社

 背の高い人と低い人では目に映る景色が違うように、平熱が37度の人と35度台の人では世界の感じ方が違うだろう。そんな文字どおり“温度差”のあるカップルのすれ違いと別れを、いつも傍らにいたストーブ目線で描いた表題作を含め全7編を収録する。

 ほとんどの作品の舞台が冬で、雪が重要な演出装置となる。大雪で帰れなくなった夜、偶然出会った女性2人の連帯のドラマ「雪を抱く」。突然死した親友の思い出を辿(たど)りながら雪道を歩く「雪の街」。女性トラックドライバーと雪女の奇妙な友情を描いた「雪子の夏」では夏に雪が降る。不慮の事故で透明人間になってしまった男とその妻の愛と喪失を描く「きみが透明になる前に」で、透明の夫が雪の中を歩くシーンも印象的だ。

 そして、もうひとつ通底するモチーフが身体像(自己の身体に対する認知・感覚・評価の総合で自我の構成要素)である。透明人間のエピソードに顕著だが、「雪を抱く」でも妊娠した女性の複雑な心情が描かれた。

 清潔感のある絵柄、見開きで展開される息を呑(の)むような美しいシーン、詩的なセリフ。寒そうなのにほんのり温かみを感じる作品群は、かじかんだ心を解きほぐす。=朝日新聞2022年12月17日掲載