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谷津矢車が薦める「せきれいの詩」など動物がテーマの時代小説3選

谷津矢車が薦める文庫この新刊!

  1. 『せきれいの詩』 村木嵐著 幻冬舎時代小説文庫 847円
  2. 『大江戸あにまる』 山本幸久著 集英社文庫 748円
  3. 『福猫屋 お佐和のねこだすけ』 三國青葉著 講談社文庫 682円

 動物が好きという方は多いと思う。かくいうわたしも犬が好きで、いつか飼いたいと思っているクチである。そんなわけで今回は、「動物」をテーマに選書。

 幕末期に高須、尾張、桑名、会津の藩主となり世に知られる高須四兄弟と、その陰に隠れたもう一人の兄弟松平陸ノ介と妻・澪(みお)の日々を描いた(1)は、陸ノ介と澪、高須四兄弟という小さな窓から幕末の風雲を覗(のぞ)き見るようなアングルで描かれているためか、終始静けさと格調が漂う。時代のうねりに巻き込まれる高須四兄弟と陸ノ介の運命、タイトルに託された陸ノ介の偏狭で物悲しく、清冽(せいれつ)な生の在り方に注目されたい。

 西洋への扉が少し開かれ、蘭学(らんがく)文化が爛熟(らんじゅく)を迎えた江戸後期に材を採った(2)は、数々の舶来動物の登場する文字通りの「あにまる」小説。そうした「あにまる」の存在感と共に、幕末に活躍することになる実在の人物の若かりし日々と主人公幸之進の奮闘が作品を彩る。そんな賑々(にぎにぎ)しい物語から一転、最終話には、現代に生きるわたしたちの知るはずのない、華やかな江戸へのノスタルジアが立ち上がり、その哀感がちくりと読者の胸を刺す。

 夫を亡くしたお佐和の家に野良猫が迷い込み、その野良猫に福と名付けて一緒に暮らすうち、福が幸運を運んできて……という導入から始まる(3)は、キャラクター小説で根強い人気を誇るお店ものの雰囲気を時代小説に持ち込んでいる。猫や仲間と共に生計の道を探す寡婦お佐和の不安や喜びに共感する方も多いことだろう。=朝日新聞2023年1月7日掲載