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中村計さん「笑い神 M-1、その純情と狂気」インタビュー 怖くて優しい芸人に密着

中村計さん

 「漫才の格闘技」とも称されるイベント「M―1グランプリ」。2010年に悲願の優勝を果たし、関西の若手や中堅漫才師から尊敬を集める「笑い飯」の哲夫と西田幸治を中心に、命を削りながら漫才に向き合う人々の生き様を切り取った。

 頭部が鳥で首から下が人間という設定の「鳥人(とりじん)」など、ボケとツッコミの役割分担が目まぐるしく入れ替わるダブルボケ・ダブルツッコミ。笑い飯の芸風は「独特」の一言では片付けられないほどの独創性があり、それゆえ2人は強烈なカリスマ性を持つ。盟友「千鳥」との下積み時代の「伝説」の数々は壮絶だ。

 一方で笑い飯は以前、「面白くない」と断じた同世代や後輩たちに容赦がなかった。著者は、「NON STYLE」の石田明の「芸人がつまらないことを言ったら『おまえはNON STYLEか』みたいな言い方をされた」、「キングコング」西野亮廣(あきひろ)の「後輩の足を引っ張るようなことを言ってるのを聞いた瞬間、(笑い飯を)大嫌いになりました」などの証言も盛り込んだ。

 「おとしめるつもりはサラサラない。人間を見る時、いい人かどうかで好きになるんじゃなく、面白いかどうかで判断する」。密着取材中、哲夫と芸人仲間らとの飲み会に同席した際、遠慮してICレコーダーを起動させずにいると、哲夫に「納得いかん。いい話してんのに、なんで回さへんねん」と言われた。「自分が話したことで何を書かれてもいい」。そんな決意と受け取った。

 主に野球関連の著書で評価を得てきた。かつては漫才に台本があることや、締めの「もうええわ」の意味も分からなかった。しかし現在は、「芸人って、すごく怖いし、すごく優しい。すごく人間臭くて面白い」。「今後も分野に関係なく、面白い人を追い続けたい」と語った。(文・写真 後藤洋平)=朝日新聞2023年1月21日掲載