韓流ファンで「古家さん」の名前を聞いたことのない人は少ないだろう。ドラマ「冬のソナタ」ブームの真っ最中、千人の日本のファンが訪れた韓国ツアーでのペ・ヨンジュンさんのファンイベント。BTSなどのK―POPグループが日本デビューした際のショーケース。こうした韓流エンタメの日本進出の際の重要イベントのほとんどでMCとして場を支えてきた。そんな古家さんが昨年末、自伝的エッセーを出版。日韓の文化への思いをつづった。
「スターの裏話を書いてほしいと言われても無理です」。出版社から本の依頼を受けた当初、こう断ったという。「ジャーナリスト」という肩書も、昔は入れていたが最近は外している。「僕はあまりにも(韓流エンタメの)業界の中に深く入り込みすぎてしまった」
だが、編集者から「古家さん自身について書いてほしい」と言われ、ふと思った。自分のこれまでの仕事をまとめることで、韓流の創生期からの歴史を描けるのではないか。
留学先のカナダで韓国の音楽に出会い、韓国に留学。北海道のFMラジオ局「ノースウェーブ」でDJとなって、初めて韓国の曲を放送した時に聴衆から寄せられた不満。「冬ソナ」とともにそうした反応が熱狂に変わっていったこと。誰よりも近く、深く、ブームを見つめてきた古家さんの個人史はそのまま、日本社会における韓流史になっている。
「ただ好きなだけでは、お互い理解できない壁があるということを伝えたい」と、あえて日韓の政治問題にも触れた。「たとえ将来の歴史教科書には記載されなくても、文化コンテンツやその関係者によって、心理的な日韓関係は改善してきた。表には出ないけど、振り返って個々人に刻まれる歴史を、僕は大切にしていきたい」(文・守真弓 写真・伊ケ崎忍)=朝日新聞2023年1月28日掲載