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玉置永吉さん&えがしらみちこさんの絵本「あなたの すてきな ところはね」 成長していく子どもたちへエールを込めて

あるがままで愛されていることを感じてほしい

――『あなたの すてきな ところはね』は、お話を書いた玉置さんが、2017年に『なんにでもレナール!』(教育画劇)という絵本を作ったところから始まる。がんの余命宣告を受けたシングルマザーの方から依頼された絵本で、「子どもとずっと一緒にいられないと思うので、大きくなってから読んでもらえる絵本を作ってほしい」とお願いされたもの。その制作過程で浮かんだストーリーのひとつが『あなたの すてきな ところはね』だ。絵との相性もあり、そのときは別の話を絵本にしたが、玉置さんはこの話でいつか絵本を作りたいと作品を温め続けていた。

玉置:すごく強い思いで書いた作品だったんです。余命宣告を受けたお母さんは、「私は短い時間でもあなたがいたからこそ幸せだったし、あなたの存在が私にとって大切だったと後々にも伝えたい」とおっしゃっていました。普段思っていることを書いているというノートを見せてもらったら「一緒にヨーイドンって言って走る姿が好き」「散歩しようって手を繋ぐのが愛おしい」とあって、もし自分だったらどんなことを伝えたいだろうと思って書きました。そうしてできたのが、『あなたの すてきな ところはね』のお話です。

えがしら:はじめてお話を読んだとき、率直に、私にこういう視点はなかったなと思いました。すごくニュートラルに子どもを見守る目線で書かれていました。たいていの子どもが既に持っているものを素敵と言ってくれる、もう存在自体が素敵なんだと言ってくれる。これは私も絵本にして持っておきたいなと感じました。

――この作品には、春、夏、秋、冬を通して子どもの日常が描かれている。日常のなんでもないしぐさや言葉、ときには大人が大慌てしそうな失敗もある。でもそれは失敗ではなく、微笑ましい光景であり、子どもにとっての発見でもあることが、文章と絵、それぞれで表現されている。

玉置:えがしらさんの描く季節の絵が好きだったので、最初に「四季を入れてほしい」とだけお願いしましたが、あとはすべてお任せしました。絵が上がってきたら、もうこれしかないなと思わせる愛おしさに溢れる絵ばかりでした。この作品では、子どもに「がんばれ」とか「〇〇を大切にしてね」って言うのではなくて、感謝の気持ちと、あなたをどれだけ好きかという気持ちを伝えたいと思って、いろいろと考えました。愛されているんだよっていうのをいつでも感じてほしいと思っています。

『あなたの すてきな ところはね』(KADOKAWA)より

えがしら:この夏の海のシーンは、玉置さんが試行錯誤して作りながら変わっていったページでした。「よりみちしてもいいんだよ。まっすぐじゃなくていいんだよ!」という言葉が出てきたとき、すごくいいなと思ったんです。本全体で「あなたは、そのままでいいんだよ」という思いは出ているのですが、「まちがってもいいんだよ」ということが感じ取れて、本全体の思いをくるんだ感じがしました。

『あなたの すてきな ところはね』(KADOKAWA)より

えがしら:「よりみちしてもいい」というシーンの後に、「まよっちゃってもだいじょうぶ。あなたのみているほうがまえよ。」というシーンが来るのも、気に入っています。絵では、子どもは下をのぞき込んでいるんですけど、そこがあなたの中の「前」なんですよ、それで自信を持っていいですよと伝わったらと思って描きました。

玉置:自分が文章で表現したかったことを、えがしらさんがまるまる絵にしてくれたのが嬉しかったですね。このシーンで伝えたかったことは、「気になって後ろ向きになったり、うつむき加減になったとしても、あなたが一番好きだったら、自信を持っていいんだよ」というメッセージでした。

手元に置いて勇気をもらえる絵本に

――玉置さんは、自分が書いたお話にえがしらさんのような絵がついたら素敵だろうな、と思ってはいたが、もとは知り合いだった訳ではない。えがしらさんが投稿サイトの「note」に、絵本作家になった経緯を書いているのを目にしたのがきっかけだった。

玉置:絵が描ける人よりも、絵本を作るチャンスが少ないことを悩んでいたときでした。たまたま、えがしらさんとメッセージをやり取りする機会があって、そのことを相談したんです。そうしたら「好きな作家に直接文章を送って読んでもらったらどうですか?」とアドバイスをいただいたんです。実は……好きな作家はあなたなんですっていう最後はラブレターみたいなやりとりになってしまいました(笑)。文章を見てくださると了承を得ても、最初は本当に作品を送っていいのか躊躇しました。でも送る前に、もう一度えがしらさんの『あなたのことが だいすき』(KADOKAWA)という作品を見たんですよ。そのとき妻がそれを読んで「この絵本は、すぐ手に取れるところに置いて、何回も読もう」ってキッチンに置いたんです。ぼくが作りたかったのもそういう作品でした。いつでも手に取れるところに置いて、見返しては勇気をもらって、自分は愛されているって確認できる作品になってほしかった。だから、やっぱりこの方に描いてもらいたいと強く思いました。

えがしら:実は私も、童話作家のかんのゆうこさんとSNSで繋がってやりとりをしているときに、「あなた絵本に向いているんじゃない?」と言ってもらって、絵本作家として拾ってもらったことがあったんです。そのとき一緒に『はこちゃん』(講談社)という絵本を作りました。出版社経由でないお話はあまりお受けすることがないのですが、玉置さんは既に絵本を1冊出している方だったので、安心感がありました。でもはじめて文章をもらったときは、びっくりしました。まるで女性が書いたんじゃないかと思うような文体だったから。やわらかい、優しい文章でした。

――一番最後のページには「___のすてきなところ」と、名前とメッセージを書く欄が設けられている。これは玉置さんがリクエストしたのだという。親から子への気持ちを書いたり、贈った相手への応援の言葉が書ける場所。贈られた人は、最後のページをどんな気持ちで読むのだろうか。

玉置:友だちが娘さんに読み聞かせしたとき「この絵本を読んでくれると、嬉しい気持ちになる」と言ってくれたと聞いて、心が温かくなりました。意外だったのが、幼ななじみの女性に「この絵本を作ってくれてありがとう」と言われたことです。職場の同僚が転勤することになったので贈りたいと思うって。大人が大切な人にあげたくなると聞いて驚きましたが、嬉しかったですね。「あなたは絶対誰かに愛されているし、絶対素敵な人だから、前を向いて進んでほしい」という思いが、一番伝えたいことでした。

えがしら:この本は、私の中では『あなたのことが だいすき』に続いて、「手元に置いておきたくなるシリーズ」の2冊目というイメージなんです。この本はみなさんSNSで紹介してくださっているのを見ても、図書館の貸本の写真を載せている人がほぼいなくて、気持ちが伝わっているのかなと嬉しくなりました。描いているときは、自分が一番の読者なんです。自分もずっと持っておきたくなる絵本。いつもそんな絵本が作れたらいいなって思いながら制作しています。