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雑誌「GENIC」 撮ることは生きることに直結

「GENIC」

 雑誌「GENIC」を手にとってその贅沢(ぜいたく)な作りに驚いた。オールカラーで150ページ近い。

 新型コロナのパンデミックに追われるようにして、「アサヒカメラ」や「日本カメラ」など老舗カメラ雑誌の休刊が相次いだことは記憶に新しい。それを思うと「GENIC」の思い切りの良さには舌を巻く。休刊した雑誌との差はどこにあるのだろう。

 カメラ雑誌休刊の理由としては、高度なカメラ機能を備えたスマートフォンの登場や、記事の定番だった新製品のテストや細かい撮影テクニックといった情報がネットでただで見られるようになったことなどが挙げられていたと記憶する。

 「GENIC」にはカメラの細かい機能の紹介やテスト記事は見当たらず、ひたすら写真作品が並んでいる。撮影テクニックの詳細な解説もない。使用しているカメラも一眼レフやミラーレスがほとんどではあるものの、なかには何で撮ったか記されていない作品もある。スマホでも構わないのかもしれない。

 つまり、これはカメラ雑誌ではなく写真雑誌なのだ。

 しかも撮影者は写真家に限らない。会社員や大学生もプロと同列で並んでいる。カメラ雑誌がプロとアマチュアの間に厳然と線を引いていたのとは大きな違いである。

 最新号の特集タイトル「撮らずにはいられない」にも読者との近しさが現れている。過去の特集を見ても「写真と歩む、それぞれの人生」「物語の流れる道の上で」「とある私の日常写真」など、もはやカメラがどうという話ではなく、個人の人生や日常がテーマになっている。

 読者はカメラのことが知りたいのではなく、自分が撮りたい被写体は何なのか、もしくは自分にはどんな表現が合うのか、さらに突き詰めて言えば、自分はどんな毎日を過ごしたいのか、その手がかりを得るために本誌を手にとっている。そう考えるのは大袈裟(おおげさ)だろうか。

 目次をたどると「偏愛というロマン」というページがあって面白く見た。そこには廃墟(はいきょ)ばかり撮っている人、デコトラの写真にこだわる人、全国の床屋を撮り歩いている人などの写真が紹介されていて、“偏愛”がもはや現代人の生き方のひとつになったことを感じさせる。

 もちろん従来のカメラ雑誌の定番だった美しい風景写真も載っているし、モデルのほか、わが子やペットの写真もあるし、色や風合いにこだわった作品もある。読者はそれらの中から自分が共感できる“撮りよう”を見つけることができるだろう。

 かつて写真を撮る行為は記録のためであったり、アートであったりしたけれど、今ではその枠からはみ出して、生きることと直結するようになった。ページをめくりながら、そんな思いを強くした。=朝日新聞2023年4月1日掲載