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滝沢カレンの「六番目の小夜子」の一歩先へ 転校してきた謎の美少女サヨコはいったい誰? 物語は意外な方向へ

撮影:斎藤卓行

 ここは山形県のとある高校での話だ。

 「おはようございますー!」

 「おはよう!先生!」

 「はい、おはよう」

 朝8時、学校中からおはようが沁みてくる。

 この学校に通う3年生の伊藤美智香もそんな"おはよう"の一員だ。

 美智香は仲良しグループの、飯塚早苗を見つけ後ろから駆け寄っていった。

 「早苗っ!!おはよっ!」

 「おはよぉお。美智香朝から元気だね。まだ私は眠いよ〜」

 「何それ?私だって眠いけど頑張って明るく振る舞ってんの!」

 ふたりは学校一の仲良しだと周りもよく知っている。

 そんな2人は大学も同じ場所に通う予定だ。

 美智香と早苗は今日1日の時間割に対する不満だったり、テストの話、恋の話など、とてもじゃないけどクラスに着くまでの距離では終えられない規模のことを話していた。

 「おはよ!美智香、早苗♪」

 笑顔で2人に近付いてきたのは笹柳若菜。

 若菜も、美智香の仲良しグループの1人でもある。

 「おはよー!若菜!」

 「あ、美智香、早苗、若菜、おっはー」
 「おはよぉ!」

 さらに後から、山口李梨花と山辺瞳がやってきた。

 これが、美智香の仲良しグループ5人だ。

 仲良しならではのキャッキャ感をクラス中に醸し出す。

 そして数学から始まり、体育、理科、古文、と午前中の授業が終わっていく。

 キーンコーン カーンコーン♪

 平和にすぎていく。

 「お昼だ!お腹すいたあ」

 美智香がおっきなため息と共に机にうたたねる。

 「ほんとうに減ったよね。何たべる?」

 早苗が美智香に近付きながら話しかける。

 「学食でもいく?」

 「さんせーい!カレー食べたい♪」

 「いいね!いこー」

 若菜、李梨花、瞳が提案し、みんな学食にいくことになった。

 そして昼食後、いつものゲームが始まった。

 そうこの高校には古くから代々伝わるゲームがある。

 その名も"345"。

 この高校では「サヨコゲーム」と呼ばれ愛されている。

 美智香がリーダーかのごとく言い出し、
 昼食後自然に始まる。

 なぜ流行ったのか、誰が作ったのかは誰も知らないが、先輩からの噂などでこの学校ではちょっとした人気時間だ。

 美智香たちは、その場で輪になる。

 早苗が「じゃあ私3!」
 美智香が「じゃあ私は4!」
 そして、
 李梨花が「私5!」
 と次々に手を挙げ数字をまず決める。

 そして、

 ♪「だーれだ、だーれだ!ターゲットはだぁれだ!」
 この学校以外じゃ聞いたことのないかけ歌声と共にみんなでターゲットとなる人物を指差す。

 「じゃあ瞳ね!」

 みんなの人差し指が瞳に集まった。

 そして早苗から順に瞳の今日の良かった所をリズムよく言っていく。

 3個早苗がいいところをいい、
 4個美智香がいいところをいい、
 最後に5個李梨花がいいところをいうというゲームだ。

 3〜5個つまり12個、瞳の今日のいいところをいう。だが、いいところが被ってしまったり、詰まってリズム通りに言えなかった場合は、
 半年間仲間外れにされる。

 残酷でありながら緊張感がある独特のゲームだ。

 そして、ゲームがスタートする。

 ♪見つけた見つけた良いところ

 「1.明るい!2.髪かわいい.3.リップかわいい」

 ♪見つけた見つけた良いとこ

 「1.いい香り2.食べるの早い3.ノートみせてくれた4.足早い!」

 ♪見つけた見つけた良いところ

 「1.足長い2.今日もモテる3.チョコくれた4.テストで85点5.たくさん食べる」

 「はい!セーフ!!!」

 いつの間にかに審判役を引き受けていた若菜がおっきな声でゲーム終了をお知らせした。

 「あっぶなぁ!もうさ、やっぱり5役は難しね!」

 李梨花がぴょんぴょん跳ねながら緊張感を表した。

 「いや4もドキドキよ」

 美智香も緊張のあまり小汗をかいた額を制服の袖で拭っていく。

 「やっぱり言われる側は嬉しいね♪」

 瞳が優しく頬杖つきながら笑いかけた。

 こんなゲームが"サヨコ"と呼ばれている。

 これを仲良しグループは各々休み時間に校内各地で行われている。

 そして、いいところを言えなかった者は小言無しで半年間仲間外れにされていく。

 こんなことを月曜日から金曜日毎日している。

 ちなみに、早苗は一度このゲームに言葉を詰まらせ半年間仲間外れにされていたが、無事3ヶ月前に再友情を結んだ。

 そして次の日。

 「ねね、美智香きいた?今日転校生くるんだってよ!!」

 早苗が興奮した態度で美智香の机をバンバンさせた。

 「えー?今日?女子かな?男子かな?」

 「噂だと女子みたいだよ!めっちゃくちゃ美人かもね」

 「何それ?笑 別にいいじゃん美人だって。」

 美智香は朝の授業の支度をしながら早苗の言葉を半笑いで聞いていた。

 そして、先生が入ってきた。

 「みんなおはよう!知ってる奴もいると思うが、今日はみんなに転校生を紹介すんぞー。仲良くしてやってな。はい、来なさい。」

 先生の雑な手招きされ、俯き加減で入ってきた背の高い女子。

 「初めまして。田代小夜子です。よろしくお願いします。」

 "サヨコ"

 名前がサヨコとなれば、この学校の生徒はすぐさまニヤついた反応を見せる。

 早苗が美智香の机に向かって、

 "やばくない?!"と口パクで表現している。

 美智香は綺麗に整った小夜子の顔をじっと見つめていた。

 そして転校生が来たこと以外、いつもと変わらない学校生活。

 授業がひとつひとつ終わっていく午前中。

 そして昼食時間がやってきた。

 美智香の机の周りには、また早苗、李梨花、瞳、若菜が集いだす。

 「ねね、さよこちゃん?話しかけてみようよ!」

 朝から興味がダダ漏れしている李梨花がウキウキしながらみんなに言った。

 「確かに、そうだよね!せっかくサヨコって名前なんだし!転入祝いでゲームもしてあげなきゃ!」

 若菜がふざけ笑いしている。

 そして美智香率いる仲良しグループが、1人で昼食を取っている小夜子に話しかけた。

 「さよこちゃん、初めまして!仲良くしようよ!私、美智香!」

 「私は早苗だよん」

 「若菜っていいます〜」

 「私は李梨花って呼んでね」

 「瞳です!」

 みんながそそくさと自己紹介する。

 「私は、小夜子です。ありがとう。よろしくね」

 「サヨコちゃんは、この学校のゲームを知ってる?」

 早苗が早速切り出した。

 「ゲーム?」

 「そう!その名も"サヨコ"っていうゲームがこの学校では昔から代々伝わってるの。」

 「あぁ。知ってるよ」

 小夜子は、急に冷めた言葉付きになった。

 「え?!?!知ってるんだ!やろうよ!
 私たち毎日お昼ご飯終わりにやってるんだ!」

 早苗をはじめみんなが驚いた顔をした。

 そりゃそうだ。サヨコゲームというこの学校独特のゲームを転入生が知ってるはずなどないのだから。

 「誰かから教えてもらったの?」

 美智香が落ち着いた声で、小夜子に聞いた。

 「ずっと前から知っているよ。」

 「え?なんで?」

 「なんでかな。知ってるんだよ。有名だから。」

 「あ、そうなんだ。このゲームってこの学校でしかやってないみたいだから驚いた。でもまあ知っているなら話は早いねやろうよ」

 美智香たちは自然と輪になりまたゲームの位置につく。

 「じゃあターゲット決めるよ!」

 李梨花がキャピ声で伝える。

 ♪「だーれだ、だーれだ!ターゲットはだぁれだ!」

 みんなの指が小夜子に向く。

 最初に声を出したのは李梨花。

 「じゃあ私3!」

 「じゃあ私は4!」

 と、早苗。

 「はい、私5」

 美智香。

 そして早い者勝ちで数字はあっけなく取られていき小夜子のいいところを言っていく。

 ♪「見つけた見つけけたいいところ」

 「1.スタイル抜群2.かわいい3.肌白!」

 ♪「見つけた見つけけたいいところ」

 「1.声綺麗2.透明感がある3.まつ毛長い4.顔小さいっ」

 ♪「見つけた見つけけたいいところ」

 「1.指が綺麗2.髪がサラサラ3.言葉遣いが丁寧4.大人っぽい5.目がでかい」

 「はい、みんなセーフ!」

 と若菜が放つ。

 みんなで拍手をしながら、笑いあっていたが
 小夜子だけは針金みたいに笑わなかった。

 美智香が気付き、

 「あれ?嫌だった?これ褒めるゲームなんだよ」

 「知ってるよ。でもなんで、わざわざ必死になって褒めようとしてるのかなって。」

 「え?嬉しくないの?」

 美智香は小夜子の顔を伺いながら聞いた。

 全員がキョトンとした目になる。

 「嬉しくないよ。たった3個、4個、5個褒めるだけで必死になっちゃってさ。私なら6個だって言えるよ。やっていい?」

 全員さらに目がキョトンとなる。

 「6個?笑」

 「そんなルールないよ〜」

 美智香と早苗が笑いながら小夜子に言った。

 「でもやってみよ。6個まで」

 美智香が言う。

 「じゃあターゲット決めからね」

 ♪「だーれだ、だーれだ!ターゲットはだぁれだ!」

 みんなの指先が美智香に集まった。

 すかさず、早苗が

 「私3!」

 李梨花が

 「私4!」

 若菜が

 「私5!」

 そして小夜子が

 「私6。」

 そしてゲームが始まった。

 ♪「見つけた見つけけたいいところ」

 「1.おもしろい2.センスいい3.楽しい!」

 「1.綺麗2.足細い3.メイクが上手4.頭いい」

 「1.話が上手い2.愛嬌もある3.褒めてくれる4.モテモテ5.字が綺麗」

 そして小夜子の番が来た。

 「1.いじめっこ2.嘘つき3.裏切り者4.頑固家族5.雑な扱い6......人殺し」

 「.........」

 全員が声を失ったかのように、沈黙が続いた。

 重く長い沈黙。

 周りの生徒たちの"サヨコ"ゲームをしている声だけがなんとなく聞こえる程度。

 最初に言葉を出したのは、早苗だった。

 「え?何?意味わからない。酷すぎることばっか。美智香に何言ってるの?謝りなよ!」

 早苗が栓を切ったように、みんながみんな小夜子を責めはじめた。

 「謝りなよ。あまりにもひどい。嫉妬?」

 「美智香がせっかく仲間いれたのに、何その仕打ち。」

 みんなが小夜子を責めた。

 でも小夜子はそんなことには揺るがぬ視線、そして口元は少しばかり笑っていた。

 「そうだよね。これ言われたら嫌よね。でも過去は変えられないから。」

 そんな言葉を氷のように置いていき、小夜子はどこかに行ってしまった。

 美智香は小夜子の言葉がなぜか気になって気になって仕方なかった。

 美智香はその日の放課後、
 忘れたメイクポーチを取りに夕方学校へ戻った。

 「バカだな私。えっと確かここにいれたはず...」

 体操着などが収納されているロッカーをゴソガサゴソガサ探す。

 すると後ろから、声がする。

 「探し物って、これ?」

 ハッと美智香の肩が驚きを表した。

イラスト:岡田千晶

 振り返るとそこには美智香の机に座っている小夜子がいた。

 小夜子は机からピョンとおりると、
 屋上の方に走って行った。

 美智香もそれを追う。

 小夜子を追いかけ、屋上についた。

 「ねー小夜子。なんでわたしのメイクポーチを持ってんの?」

 風が怒るように吹いている。

 「なんでだろ?あなたが嫌いだから捨てようと思っていたかも」

 「は?なんで私をそんな嫌うの?私あなたに何かした?」

 「ええ。とってもした。あなたは覚えてないだろうけど」

 「え?なに?」

 小夜子はゆっくりと近づき語り出した。

 「私はキエ子に殺されたの。」

 美智香は顔が一気に固まる。
 頭皮からプツプツと汗も浮き上がる。

 「私の、お、おばあちゃん?」

 「正解。もう何年前か分からないけど、キエ子がサヨコゲームを作ったの。知ってた?私はそのゲームが大嫌いだった。だって私がターゲットになればいつも悪口を言われるから。」

 「おばあちゃんが?」

 「そ。あんたのおばあちゃんは何故か私を嫌った。キエ子は私に攻撃が止まらなかった。言葉は包丁みたいに怖かった。でね、私80年前の今日ここから飛び降りた。キエ子のせいで、私はまだ17歳だった」

 空は灰を被ったようにグレーになっていった。

 「だから、あなたが嫌い。楽しそうにいまだにサヨコゲームして。あのゲームがどれだけ人を不安にさせ窮屈にさせているか。私はたくさんの汚い言葉、強い言葉を受け止めすぎてしまった。でもそんな子きっと私だけじゃないはずだから。」

 「あなた、じゃあもうこの世にはいない人なの?」

 小夜子は空の向こうを見ているような目をした。

 「いないよ。私はもう。生きていたとしたって97歳。でも私の命は17年。ここで終わった。
とっくにサヨコゲームは終わっていたと思っていたけどね。まさかまだ続いていたとは。」

 「じゃああなたはゲームを止めに来たの?」

 「そう。私の願いはそれだけ。あなたが幸せそうにサヨコゲームしてるのが許せなくて。」

 美智香は小夜子を真っ直ぐ見つめた。

 小夜子は目にたくさんの涙を潤わせながら空を見ていた。

 「小夜子。ありがとう。そして、こんなんじゃ足りないけどごめんなさい。」

 「もう私もさっさと行くべき場所に行かなきゃ。」

 2人が話し合った頃には、灰色は水色の空に変わっていた。

 何が詰まっていたものが取れたかのように。

 次の朝、小夜子はいなかった。どこにも。

 転校してきたはずの80年前の小夜子。

 美智香以外、小夜子の記憶がある人物は学校にいなかった。

 美智香にだけ伝えにきたのかもしれない。

 美智香はその日、先生に相談し"サヨコ"ゲームは禁止となった。

 亡き小夜子からのメッセージのおかげで、
 次の年からこの学校の不登校者は0人になった。

 美智香は思う。

 「ありがとう、小夜子」

(編集部より)本当はこんな物語です!

 ある地方の高校で、生徒たちが代々受け継ぐ「サヨコ」という名の謎めいた伝習。そこへ転校してきた謎の美少女「サヨコ」。今年も着々と「サヨコ」の行事が進んでいくが、サヨコが転校して来てから何かと歯車が狂い出す。もしかして転校生サヨコは「サヨコ」なのか? 「サヨコ」を巡って過去に起きた不幸な出来事に、転校生サヨコは関係しているのか?

 受験を控えた高校生たちの青春模様を、まるでホラーやミステリーのようタッチで描く恩田陸さんの作家デビュー作。2000年にテレビドラマ化されて人気を呼び、2022年には舞台でも上演されました。滝沢さんバージョンは、「もしも転校生サヨコが過去に死んだ生徒サヨコの幽霊だったら」という、原作で匂わせる展開に、ストーリーを進めています。

「滝沢カレンの物語の一歩先へ」が本になります

 2018年にスタートした連載「滝沢カレンの物語の一歩先へ」が、『馴染み知らずの物語』にタイトルを変えて本になります。

 早川書房が2023年6月に新たにつくる新書レーベル「ハヤカワ新書」の創刊ラインナップの一冊で、45回を数える連載の中から選んだ傑作に、書下ろしを加えています。

 どんな作品が収録されるのでしょう? お楽しみに!