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「女子マンガに答えがある」書評 世知辛い現実生きる大人たちへ

評者: 藤田香織 / 朝⽇新聞掲載:2023年06月24日
女子マンガに答えがある 「らしさ」をはみ出すヒロインたち 著者:トミヤマユキコ 出版社:中央公論新社 ジャンル:マンガ評論・読み物

ISBN: 9784120056550
発売⽇: 2023/05/10
サイズ: 19cm/230p

「女子マンガに答えがある」 [著]トミヤマユキコ

 無性に、マンガが読みたい!と思うことがある。
 少しだけ違う世界に逃避したい、さくっと気分を切り替えたい。いつでも、どこでも、ひとりでもそうした思いを叶(かな)えてくれるのが読書だが、加えてマンガには即効性があるのがいい。
 とはいえ、毎月、少女漫画誌に夢中になっていた時は遠く過ぎ去り、今となっては何を読めばいいのかわからない人も多いのではないか。いや「わからない」のはマンガ選びだけじゃない。よくよく考えてみるまでもなく、人生には進学、就職、恋愛、結婚。離婚に育児に介護に老後と選択肢が山ほどあるのに、「正解」なんて誰にもわからないのだ。素敵な王子様が迎えに来たりしないことはわかっている。たとえ探したところで、幸せの青い鳥が見つかる気もしない。
 本書は、そうした世知辛い現実を生きる大人に寄り添い、活力を取り戻すよう誘うガイド&エッセイだ。
 おもしろい女、たくましい女、ハマる女、いやな女、貧しい女、養う女、など十のテーマで紹介される約七十作のヒロインたちは、実に個性的。国民的知名度を誇るサザエやまる子、各世代を代表する人気者の、のだめ、つくし、マヤが、どこに分類され、どのように紹介されているのか。『エースをねらえ!』の岡ひろみをそう見るか!と感心し、『東京ラブストーリー』の関口さとみの分析に、首がもげるほど頷(うなず)いてしまう。
 文章そのものに親しい友人の話を聞いているような気安さがあり、それでいてピリッと毒も効いている。取り上げられている作品の世代も幅広く、懐かしさもあれば、新たな興味も湧いてくる。個人的には「年収250万円ちょっと」の主人公「沼ちゃん」が、マンション購入を目標にしているという『プリンセスメゾン』を即買いし、『ガラスの仮面』30巻分をひと晩で読み返してしまった。
 多様性の時代、などと言われる前から描かれてきた生き様に心が強くなる。
    ◇
トミヤマ・ユキコ 1979年生まれ。ライター・マンガ研究者。著書に『少女マンガのブサイク女子考』など。