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「婦人公論」から女性観の変化を深掘りする「百年の女」 安田浩一が薦める新刊文庫

安田浩一が薦める文庫この新刊!

  1. 『百年の女 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成』 酒井順子著 中公文庫 1100円
  2. 『記録 ミッドウェー海戦』 澤地久枝著 ちくま学芸文庫 1870円
  3. 『僕はこんなふうに旅をしてきた』 下川裕治著 朝日文庫 990円

 (1)「現代婦人の卑俗にして低級なる趣味を向上」させるのだと宣言して1916年に「婦人公論」は生まれた。余計なおせっかいにして、一方的な男目線。だが、雑誌は時代の鏡でもある。著者は同誌のバックナンバーを丹念に読み込み、女性観の変遷を深掘りする。女性は劣った存在であるといった認識からスタートした同誌は、女性論客たちの登場で一気に場が匂い立つ。自由恋愛や女らしさをめぐる識者の論争があれば、自社の女性記者と作家の心中事件をトップ記事で扱い、ゲスっぷりも存分に発揮。戦後はウーマンリブもセックスも正面から論じていく。雑誌と女性の1世紀。頑迷なる家父長制との闘いの記録でもある。

 (2)太平洋戦争の動向を決したのはミッドウェー海戦だ。日本はこの惨敗を敗戦まで隠し続けた。遺族が受け取ったのは一片の「戦死通知」だけである。日米合わせて約3400人の遺骨は今も海に眠ったままだ。著者は生身の人間が確かに存在したことを記録に残そうと考えた。残された手紙や遺族へのインタビューを通して無機質な数字に「生」を与えていく。執念の作業に震えた。

 (3)あてもなく海外を旅していた時期、私はガイドブックよりも著者の本を読みこんだ。旅に生き続ける著者と、体験を共有したかったのだ。三十余年に及ぶ旅の記録から選(よ)りすぐりのエピソードをまとめた本書は、私の中で眠りかけていた旅心を刺激した。怖くて、優しくて、そして美味(おい)しい世界が待っている。=朝日新聞2023年7月8日掲載