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伝奇ミステリの新たな里程標になる「アンデッドガール・マーダーファルス4」 若林踏が薦める新刊文庫3点

若林踏が薦める文庫この新刊!

  1. 『アンデッドガール・マーダーファルス4』 青崎有吾著 講談社タイガ 913円
  2. 『ギリシャ・ミステリ傑作選 無益な殺人未遂への想像上の反響』 ディミトリス・ポサンジス編 橘孝司訳 竹書房文庫 1650円
  3. 『その罪は描けない』 S・J・ローザン著 直良和美訳 創元推理文庫 1430円

 青崎有吾の〈アンデッドガール・マーダーファルス〉は、伝奇小説の要素を持つミステリの新たな里程標となるシリーズだ。(1)はその最新作にして初の短編集である。半人半鬼の青年・真打津軽(しんうちつがる)、不死の“怪物専門”探偵・輪堂鴉夜(りんどうあや)、その従者で「絶景(たちかげ)」という特殊な武器を操る馳井静句(はせいしずく)。“鳥籠使い”を名乗るメンバーたちの、壮絶な過去が明かされていくエピソードが収められている。歴史上の偉人と空想上の怪物たちが入り乱れる独特の世界観と、謎解きやアクションを絶妙なバランスで織り込んだ展開が堪(たま)らない。収録作のうち「人魚裁判」は法廷ミステリの秀作で、一つの手掛かりから論理を突き詰めていく推理の楽しさを味わえる。

 近年の翻訳ミステリでは英米圏以外の作品紹介が以前に比べて積極的に進んでいる。(2)はその動きの一つというべきで、日本ではまだ馴染(なじ)みが薄いギリシャ・ミステリの現在を探訪できる作品集だ。様々なテイストのミステリが収録されているが、「さよなら、スーラ。または美しき始まりは殺しで終わる」など、ノワールの風味がある作品が強い印象を残す。

 (3)は現代最高の私立探偵小説シリーズの一つ、〈リディア・チン&ビル・スミス〉の長編第十三作目。探偵コンビの片割れ、ビルの視点から語られる本作は、「自分が人殺しであると証明して欲しい」という奇妙な依頼を受けるところから始まる。軽口を叩(たた)きながらも繊細な優しさを感じさせるビルの人物造形は、いつもながら心に沁(し)みる。=朝日新聞2023年7月22日掲載