第169回芥川賞・直木賞の贈呈式が25日、東京都内で開かれ、受賞者3人がスピーチを披露した。
「ハンチバック」(文芸春秋)で芥川賞を受賞した市川沙央さんは、筋力が低下する難病の先天性ミオパチーを患う重度障害者。過去に読書バリアフリーを求める出版界への手紙が無視されたり、20年にわたってライトノベルの新人賞に落選し続けたりした経験を語り、「怒りだけで書きました。『ハンチバック』で復讐(ふくしゅう)をするつもりでした。私に怒りを孕(はら)ませてくれて、どうもありがとう」と皮肉たっぷりに話した。
一方で、「でも、こうして皆様に囲まれていると、復讐はむなしいということもわかりました。私は愚かで、浅はかであったと思います。怒りの作家から、愛の作家になれるように、これから頑張っていきたいと思います」とも述べた。
「極楽征夷大将軍」(文芸春秋)で直木賞を受賞した垣根涼介さんは、受賞作の発表前に他の候補作を読んだと明かし、「1冊目に読んだのがめちゃめちゃ面白くて。でも一方で、こんなに面白がって読んでたら俺がやばいじゃないか」と相反する感情に悩まされたと語った。その上で、「結局はそうやって面白がって読むことによって、脈絡も関係性も説明できないんですが、こうやって壇上にいることができたんだななんてことを思っています」。
「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」(新潮社)で直木賞を受賞した永井紗耶子さんは「デビューのときに自分が何を言っていたのかなと振り返ってみましたら、『書き続けていきたい』と言っていました」と語り、「これからも楽しい作品を届けていきたいと思っております」と抱負を語った。(山崎聡)=2023年8月30日掲載