他人の着物の着こなしに上から目線でダメ出しをする「着物警察」と呼ばれる人たちがいる。同じ警察でも本作に登場するのは純粋に着物好きな警察官。自由な発想の和洋折衷コーデで日常的に着物を楽しむ。そんな彼女=鷹倉響(たかくらひびき)の着物仲間が、チンアナゴ柄の帯に一目ぼれして着物の世界に足を踏み入れた山田撫子(なでしこ)。初めて浴衣で出かけて、下駄(げた)は痛いわ着崩れするわで立ち往生していたところを助けられたのがきっかけで友達になった。
初心者の撫子が響の後押しで着物の楽しさに目覚めていく姿を軸に、老舗呉服店の跡取り息子や古着着物店の店主、謎の着物好き姐(ねえ)さんなど、各人各様の着物との関わりが描かれる。なかでもやはり撫子の天真爛漫かつパワフルなキャラが痛快だ。自分の好みがわかっていて迷いがない。伝統やルールを学びつつも縛られない。彼女らのコーデは実にお洒落(しゃれ)で、まさに「かわいいは正義」である。
響の祖母も含めたシスターフッドの物語としても読める一方、男性にとっての着物、着物業界の課題にも触れる。着物に対する固定観念を覆されること請け合いだが、それは着物だけにとどまらず、常識という名の思い込みを問い直すことにもつながるだろう。=朝日新聞2023年10月21日掲載