今年のノーベル生理学・医学賞に決まった女性の半生を描いた米国の伝記絵本の邦訳版「カタリン・カリコの物語 ぜったいにあきらめない mRNAワクチンの科学者」(デビー・ダディ文、ジュリアナ・オークリー絵、西村書店)が、今月31日に刊行される。翻訳は、サイエンスライターの竹内薫さんと、竹内さんが校長を務めるフリースクールの生徒たちが担当した。
「ハンガリーの小さな町から始まった長い旅」。カリコさんは自身の歩みをこう語るが、同書には、山あり谷ありの半生がていねいに描かれている。
研究が評価されなくてもめげずに挑戦し続けた姿、ぬいぐるみにお金を隠して敢行した米国への出国、ともに受賞した共同研究者ドリュー・ワイスマンさんとコピー機の前で出会ったエピソードのほか、ワクチンの仕組みや開発ステップに関する解説も充実。読み応えのある一冊だ。
竹内さんは校長を務める「YES インターナショナルスクール」(横浜市)での探究学習にぴったりだと感じ、授業で翻訳することを思いついた。10~13歳の生徒たちが、週に2回の授業で、約3カ月をかけて完成させた。
英会話ができる生徒ばかりだが、翻訳は初めて。科学的な内容を理解し、日本語に置き換える作業には四苦八苦していたという。「あきらめないカリコさんの心を体験できたのでは。科学的に考えることの大切さも伝わってくれていたらうれしい」と竹内さん。医学監修は、放送大学大学院教授で医学博士の山内豊明さんが担当した。
西村書店は、今年3月のボローニャ国際児童図書展で本書を見つけた。後世に残る科学者の本だと考え、刊行の準備を進めていたという。担当編集者は「絵本ならではの図説もあり、カリコさんの発見の内容やワクチンの仕組みもわかりやすい。小学校高学年から大人まで楽しめる」と話す。(真田香菜子)=朝日新聞2023年10月25日掲載