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スギヤマカナヨさん「やっぱり犬がほしい」インタビュー 飼う喜びも別れの悲しみも、 犬と共に生きるすべてを一冊に

『やっぱり犬がほしい』(アリス館)より

今こそ読んでもらいたい一冊

―― 19年前に出版された『やっぱり犬がほしい』を今、復刊させようと思われたのはなぜですか。

スギヤマカナヨ(以下、スギヤマ):『やっぱり犬がほしい』は、犬が好きで好きで、どうしてもほしいと両親に訴え続け、小学4年生のときにとうとう犬を迎え入れた、私の実話がベースになっています。生き物を飼うなら、一緒に生きていく覚悟と命を預かる責任が必要なんだ、という思いを込めて作りました。まだ保護犬という言葉が周知されていなかった頃に出版されて、長らく品切れとなっていたのですが、編集の湯浅さんから、このご時世だからこそ、この本が必要なんじゃないかとお話をいただいて。

湯浅さやか(以下、湯浅):コロナ禍で“おうち時間”が増えて、ペットを飼う人が増えたものの、元の生活に戻ったことで飼育放棄が増加しているというニュースを見て、ショックを受けたんです。今こそこの本を皆さんに読んでもらうべきだと思って、復刊を提案しました。

左が2004年刊行の旧版『やっぱり犬がほしい』(アリス館)、右が今回復刊された新版

スギヤマ:復刊にあたって湯浅さんからは、ぜひ主人公の男の子と犬との出会いを加えてほしい、とリクエストがありました。2004年版では、お父さんから犬の寿命の話を聞いて一晩悩んだ男の子が、それでも「やっぱり犬がほしい」と訴えるところで終わっていたんです。

湯浅:見返しに犬と出会う様子が描かれているんですが、見逃してしまう方もいると思うんですね。これだけがんばって両親を説得したのだから、犬との出会いもぜひ描いてくださいとお願いしました。それで原稿を待っていたら、思いがけず15年後のお話の原稿も一緒に届いたんです。

―― 新版で新たに加えられた、犬との別れの物語ですね。

スギヤマ:これは30年以上前、愛犬ラスとの別れのときに書いたお話がもとになっています。ラスは私が大学生の頃、12歳で亡くなりました。実家を離れて東京で暮らしていた私は、ラスの最期のとき、そばにいてやれなくて……。ラスが亡くなったと知ったときは泣いて泣いて、もう一生笑うことなどないと本気で思ったほどでした。

 そのときに書いたのが、犬を亡くした男の子のお話だったんです。また会いたい、でももう会えないという苦しさを、亡くなってしまっても自分の一部になって生きているんだ、というお話を書くことで、自分の中に落とし込んだのだと思います。復刊に向けて新たな原稿を書く際にそのお話のことを思い出して、湯浅さんに見せました。

『やっぱり犬がほしい』(アリス館)より

湯浅:犬と暮らすということは、犬が自分より先に死んでしまうということを受け入れないといけない。だから、このお話もぜひ本にしたいですとお伝えしました。

スギヤマ:このお話を描かせてもらえることになって、きっとラスも喜んでいると思います。もう30年以上前に逝ったのに、まるで鮮やかにそばにいるようにラスのことをたくさん思い出して……ラスは私の一部になっているんだ、ずっと一緒に生きてきたんだ、ということを立証してもらったような気がしました。

幸せな日々をアルバムで見せる

―― 新版では、男の子が「ぼく、やっぱり犬がほしい!」と訴えたあと、保護犬の譲渡会に参加し、トライアルを経て犬を迎えるまでが横書きで、犬との幸せな日々と犬の最期、悲しみを乗り越えるまでが縦書きで描かれています。前からも後ろからも読めるというのがユニークですね。

湯浅:最初はもっと版型を大きくして、絵本にしませんかと提案していました。ただ、別れのお話まで入れると絵本としてはかなり長くなってしまうので、2冊にする案も出たんです。でも2冊にすると、1冊が悲しいばかりのお話になってしまうので、それもどうかなと。

スギヤマ:それなら別れの物語は、お父さんとお父さんの犬の話として盛り込もうか、というアイデアもあったんですが、できれば1匹の犬の一生を描きたいという思いもあって。そこで思いついたのが、両開きでした。前からも後ろからも読めて、真ん中で終わる本。真ん中は同じ終わり方にしようと提案したところ、編集部からもOKが出て、その形で進めることになったんです。

 別れの物語は当初、犬を亡くした後の話として「ぼくの犬が死んだ」から始まっていたのですが、それだとお話の始まりとして悲しすぎるのでは、という指摘を受けて、犬と過ごした幸せな日々から始まる物語に書き換えることにしました。ページ数は限られていたので、幸せな日々は見開きでアルバムとしてまとめています。

『やっぱり犬がほしい』(アリス館)より

湯浅:犬との別れについても、いきなりではなく、少しページを割いて、ゆっくりお別れするような形で描いていただきました。結果的に、前からのお話と後ろからのお話をちょうどいいボリュームで構成できたように感じています。

―― 大幅加筆ということもあり、絵はすべて描き直されたのですね。これはもう復刊というよりは……。

湯浅:ほぼ新刊ですよね(笑)。

スギヤマ:最初は表紙だけ変えてこのまま復刊できれば、みたいな話だったんですけど、湯浅さんの熱量がとにかく高くて、何度もダミーを作ってきてくれて。全体的な構成だけでなく、言い回しなどの細かな部分や時代に合った家族のあり方まで、丁寧に読み込んで編み直そうとしてくれて、これぞ編集者の仕事だと胸を打たれたんです。その姿を見て、私も本気で応えたいなと思い、すべて描き直すことにしました。

 登場人物を2004年版と同じタッチで描くこともできたんですが、あえてよりシンプルなタッチに変更しました。文章がウェットになったときも、気持ちを引っ張られすぎないような絵の方が、逆にすっと入ってくるんじゃないかなと思ったんですよね。この本を読んで、泣いてほしいわけではなくて、むしろ楽になってほしい。そんな思いもあったので、こういう絵になりました。

家族の青春時代を犬と暮らそう

―― 主人公の男の子が犬の種類や性質などを書き留めている「犬のノート」は、スギヤマさんご自身が子ども時代に作っていたそうですね。

『やっぱり犬がほしい』(アリス館)より

スギヤマ:犬にはまったきっかけは、テレビシリーズの「名犬ラッシー」でした。大型のコリーを放し飼いして、一緒に歩いて……心が通い合っているかのような関係に衝撃を受けたんです。その後、小学4年生の頃から始まったドラマ「刑事犬カール」も大好きで、カールに関する新聞記事を見つけるとスクラップするようになって。当時は、いつか犬にまつわる仕事がしたいと考えていて、そのためには犬について調べることから始めようと思って、犬のノートを作りました。今でいう調べ学習の走りですね。

スギヤマさんが小学生時代に犬について丹念に調べて書き込んだノート

 学校図書館では飽き足らず公共図書館にも通って、犬種や分布、病気、解剖図など、専門書をとことん調べて書き留めました。当時はコピーもできなかったので、ひたすら書くしかないんですよ。でも不便だった分、それが力になったのかもしれません。

―― 新版には、2004年版にはなかった「保護犬」「譲渡会」といった言葉が盛り込まれました。

スギヤマ:最近では保護犬を迎える人も随分と増えて、殺処分ゼロを目指す自治体も増えています。ただ、その裏では保護活動をされている方々が休みなく奔走していて、解決しなくてはならない問題はまだ山積みです。

 一緒になって走り回ることはできないけれど、私は本に関わる仕事をしているので、本という形で、感傷的にならずに、伝えるべきことを伝えていけたらなと。犬がほしいと思っている子どもやその家族が、この本をきっかけに、ペットショップではなく譲渡会に足を運んでくれたらいいなと思っています。

スギヤマカナヨさんと、2011年に迎え入れた愛犬の茶々。茶々がスギヤマさん宅にやってきた経緯は『おいで、一緒に行こう』(森絵都・著、文藝春秋)に詳しく記されている=写真は本人提供

 私は犬との暮らしを勧めるとき、「家族の青春時代に犬を飼ってみては」という話をするんです。家族の青春時代を一緒に過ごした犬は、一生家族と共にあります。私の実家でも家族が集まると、今も必ずラスの話が出ますからね。犬というより家族なんだよなと、しみじみ感じています。

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