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呉叡人さん「フォルモサ・イデオロギー」インタビュー 台湾ナショナリズム勃興期の知識人の苦悩と模索描く

呉叡人さん

 日本統治下の台湾の人々がナショナリズムに目覚めたとき、日本や中国の一部でない形でなぜ「台湾人」となったのか。1920~30年代の政治運動や文学を特に詳しく検討した。日本への同化に抵抗し、中国大陸の文化にも違和感を持った知識人の苦悩を描き出している。

 序文冒頭に「私の知的遍歴は、すなわち自らのアイデンティティを追い求めつづける道である」と記す。

 家庭内ではよく日本語を使った。だが日本にかわって大陸から来た国民党政権は北京語(標準中国語)を強制しており、小学校から「中国人」として教育を受け、大陸出身者同然の話し方を身につけた。

 高校1年のとき。父の台湾語(福建省南部方言の派生語)を聞きとがめ「北京語で話せ」と注意した。父はつたない北京語で返した。「私は台湾人として誇りを持っているよ」。はっとしたその瞬間「それまで育ってきた中で聞いた様々な言葉が洪水のようによみがえってきた」。

 そこから始まった自分探しの旅で、先達による自己定義への模索を研究対象としたのは必然だった。

 米シカゴ大で師事したベネディクト・アンダーソンはナショナリズム論の古典『想像の共同体』で知られる。台湾同様、複雑な歴史をたどったアイルランドの国籍を持つ彼は、著者の問題意識をすぐ理解した。仕上げた博士論文が本書のもとだ。

 主題は今日の政治状況に関わる。3党が競った1月の総統選は「台湾のあり方について共通了解ができつつある。台湾ナショナリズムは今や特定政党のものではない」とみる。

 これまで2014年の「ひまわり学生運動」など数々の社会運動にも参画した。政治学者がときに政治的に行動するのは、むしろ誠実な生き方と言えるかもしれない。(文・村上太輝夫 写真・岩田恵実)=朝日新聞2024年2月3日掲載