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「ガザとは何か」書評 惨劇の真因を歴史的文脈で解く

評者: 三牧聖子 / 朝⽇新聞掲載:2024年02月10日
ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義 著者:岡 真理 出版社:大和書房 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784479394204
発売⽇: 2023/12/24
サイズ: 19cm/204p

「ガザとは何か」 [著]岡真理

 現在、国際司法裁判所では、ガザでのイスラエルの軍事行動がパレスチナ人の破壊を意図したジェノサイド(集団殺害)にあたるかどうかが審議されている。本書はジェノサイドとしか呼びようのない惨劇の衝撃から生まれた。もっともその起点は、今回の軍事行動が始まった昨年10月7日ではない。76年前パレスチナ人を排除して建国されたイスラエルは、占領や軍事封鎖、暴力的な入植を通じ、パレスチナ人を抑圧し続けてきた。世界も加担者だ。ガザで大規模な軍事作戦があった時のみ関心を寄せ、確実に進行してきた「漸進的ジェノサイド」を止めることはなかったのだから。
 メディアも「憎しみの連鎖」「暴力の連鎖」といった、占領者と被占領者の圧倒的な非対称性や歴史的文脈を無視した報道によって抑圧に加担してきた。最たる例が、2018年、パレスチナ人が帰還の権利とガザ封鎖の解除、米大使館のエルサレム移転への反対を掲げて展開した「帰還の大行進」に関する報道だ。イスラエル軍の発砲で100人超の犠牲を出しながら、なぜ決死の行進を続けたのか。そもそも誰がパレスチナ人を難民化し、帰還を阻んでいるのか。歴史的背景はうやむやにされた。
 本書刊行後、イスラエルが「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)にハマスのテロに加担した職員がいた」と訴え、欧米、さらに日本もUNRWAへの資金拠出を停止した。またも歴史の忘却という過ちを犯していないか。そう本書は問うてくる。ガザの人道危機は誰が引き起こしているのか。なぜイスラエルがパレスチナ人の生殺与奪権を握っているのか。これらを不問に付して単に「人道問題」として報じ、対処することも、事の本質を見えなくする。
 昨秋以来の情報の洪水で、むしろ見えなくさせられてきた「ガザとは何か」。この問いに真に向き合い、正しい解決に向かうために不可欠の1冊だ。
    ◇
おか・まり 1960年生まれ。早稲田大教授(現代アラブ文学、パレスチナ問題)。著書『ガザに地下鉄が走る日』など。