『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』
昨今の円安の影響もあり、日本の賃金の低さがますます露(あら)わになっている。同時に働き手は質の高いサービスを提供しているにもかかわらず、システムのなかで「捨て駒」のように扱われる。日本の労働環境の課題は、性産業にも当てはまる。松岡かすみ『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新書・957円)は、そうしたなかより稼げる場所として海外の性産業に出稼ぎをする日本人女性に迫る。性産業の低価格化やSNSの発達によりエージェントと個人がつながりやすくなったことも出稼ぎの背景にあるという。さらに海外就労は、法にふれるリスクがあるものの、自律性の高い働き方が可能になる点も魅力のようだ。
丁寧な取材にもとづくルポだが、タイトルの「風俗嬢」という表現は、女性たちの存在をどこか見下しているようで残念だ。
★松岡かすみ著、朝日新書・957円
『食べものから学ぶ現代社会 私たちを動かす資本主義のカラクリ』
市場の論理が強まり、易々(やすやす)と国境を越えて広がるのは性産業だけではない。平賀緑『食べものから学ぶ現代社会 私たちを動かす資本主義のカラクリ』(岩波ジュニア新書・1034円)は、身近な食べ物が今や金融商品として投機の対象になっていると指摘する。戦争などの国際情勢によって、食料の値段が上がる仕組みをわかりやすく論じる本書は、大人にとっても世界をみる新たな視点を与えてくれる。
★山本圭著、光文社新書・946円=朝日新聞2024年3月2日掲載