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小宮輝之・監修、中野さとる・写真、ポンプラボ・編集「にっぽんのスズメ」 すりきれた羽毛に宿る自然

 この本は多彩な写真でスズメの生活を紹介している。こんなありふれた鳥、今さら写真を見なくとも知っとるわい。そんな斜めな気持ちでページをめくる。が、そのありふれた身近さをうまく生かしている。身近だからこそ、多様な行動を近くから丁寧に撮影できている。そして身近だからこそ、普段いかに見過ごしているかを教えてくれる。

 鳥は飛び、群れ、食べ、繁殖する。図鑑や専門書では無駄なく進化した効率よさげな印象がインプットされる。しかし本の中では、勢い余ってお隣さんにぶつかったり、よく意味はわからないがペコちゃんのように舌を出していたりする。それゆえ彼らは決して遺伝子を残すプログラムなどではなく、無駄や無意味な行動をかかえた愛すべき隣人だと感じさせてくれる。この本が売れている理由はそんなところにありそうだ。

 目を引いたのは裏表紙の写真だ。求愛のポーズをとっているが、よく見ると羽毛の先端がすりきれてボロボロである。彼らは繁殖が終わると羽毛を生え換わらせる。つまり繁殖期は最も使い古した羽毛をまとっているのだ。

 野生生物は無傷ではいられない。木の葉は虫に食われ、チョウの翅(はね)は破れている。しかし自然写真では傷物は嫌われ、美麗な姿ばかりが紹介される。それだけではいわば不自然な自然だ。すりきれた羽毛で胸を張る姿には自然のリアルがある。こういう部分は精細な写真でないと気づけない点だ。

 生態や分類などの解説もくわしい。若干不正確な記述もあるが、まぁ許容範囲だ。よく見知った鳥だったはずなのに、写真と解説で新たな発見が上乗せされる。今さらながらスズメってこんなだったのかと思わされるのは少し悔しい。が、それこそ読書の快感なのであるよ。=朝日新聞2024年5月18日掲載

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 カンゼン・1650円。3刷2万5千部。22年刊。写真の中野さんはスズメの写真を投稿するインスタグラムで15万人超のフォロワーを持つ。「多くの野鳥ファンらの口コミで人気が広がっていった」と編集担当者。