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「ネットはなぜいつも揉めているのか」書評 不毛な争いだとわかっていても

評者: 小宮山亮磨 / 朝⽇新聞掲載:2024年06月08日
ネットはなぜいつも揉めているのか (ちくまプリマー新書 458) 著者:津田 正太郎 出版社:筑摩書房 ジャンル:社会学

ISBN: 9784480684837
発売⽇: 2024/05/10
サイズ: 17.3×1.6cm/272p

「ネットはなぜいつも揉めているのか」 [著]津田正太郎

 書名を見て「何のこっちゃ」と思ったかたへ。
 ネットでは、とくにX(旧ツイッター)では本当に、日々あちこちで盛大かつ不毛な口論が繰り広げられているのです。政治から芸能まで、ネタには事欠かない。なぜ君たちは(そして私たちは)いつも、もめているの? この大いなる謎に挑んだのが本書だ。
 著者によれば、一つには、ネットのやりとりは記録に残るから。引っ込みがつかず、なあなあで終わらせにくいわけだ。徹底的にやり合って恨みを買っても、見ず知らずの相手なら気に病むこともない。30年前のパソコン通信の時代からけんかは日常だったという。
 SNS特有の事情もある。世間様にもの申せば、知らない人にからまれたり、身元を特定されたりするかもしれない。リスクを承知で何か言う人には、極端な意見を持った極端な人も多い。
 そしてXでは次から次に情報が流れてくる。意見が違う上に極端な人の、攻撃的で、明らかに常軌を逸した(としか自分には思えない)投稿も多い。そんなのが嫌でも目に入ってしまって、気分が悪くなる。
 ひどいことばかり書きやがって。腹立つわぁ。ヤツらは加害者、ウチらは被害者だ。
 お互いにこう思い込むようになると、妥協点を探る面倒な議論はもはや不可能。怒りと使命感にまかせた口論が始まり、延々続くというわけだ。
 恥ずかしながら私のツイッター歴は17年。本書が解説するもめ事多発のしくみには、思い当たる節がたくさんある。
 もう、うんざりしている……のだけれど。
 米国のトランプ氏が支持者を集めたSNSを作ったものの、流行(はや)らなかったという。同じ思想の人ばかりで、平和すぎてつまらなかったからだと、著者は分析する。
 つまり不毛なけんかを楽しむ人が、実はけっこういる。それもXの燃料らしいのだ。
 情けないことに、これもそこそこ思い当たる。
    ◇
つだ・しょうたろう 1973年生まれ。慶応大メディア・コミュニケーション研究所教授。著書に『メディアは社会を変えるのか』など。