女性詩人・歌人の作品に曲を付け、ピアノで弾き語りを続けている吉岡しげ美さんが、26日に東京都内で音楽詩コンサート「天空のデュエット…時を超えて…」を開く。与謝野晶子の詩「君死にたまふことなかれ」の発表から120年、「金子みすゞ全集」の刊行から40年という節目に合わせた。
音楽詩の公演を始めて47年。作品は600曲を超える。「命と平和と愛を歌う」を貫き、北米、欧州、アジアの各国でもコンサートを開いてきた。
最初期から歌っているのが「君死にたまふことなかれ」。日露戦争に出征した弟の無事を祈った晶子の絶唱だ。
《ああ、弟よ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ。
末に生(うま)れし君なれば
親のなさけは勝りしも、
親は刃(やいば)をにぎらせて
人を殺せと教へしや、
人を殺して死ねよとて
廿四(にじゅうし)までを育てしや。》
(講談社・定本 與謝野晶子全集)
2005年の韓国・ソウル公演で、韓国語訳を朗読した女優が「悲しみというものは、どこの国でも一緒なのです」と泣いた姿が脳裏に焼きついている。
ロシアのウクライナ侵攻や中東で続発する戦闘。そんな今だからこそ歌う意味があると思う一方で、「いまだに、この詩を歌わなければならない悲しさも訴えたい」。
金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」も、今回ぜひ聴いてほしい歌だ。
《私が兩手(りょうて)をひろげても、
お空はちつとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面(じべた)を速くは走れない。
私がからだをゆすつても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがつて、みんないい。》
(JULA出版局・新装版 金子みすゞ全集・Ⅲ)
「生きとし生けるものは、いろんな個性を持っている。争うことなく、みんな一緒に生きていこうよ。詩に満ちているそんな思いを伝えたいんです」
公演では新川和江、岡本かの子、茨木のり子らの作品も歌う。「女性詩人が魂を捧げた言葉の力に励まされ、音楽詩の公演を続けてきました。彼女たちの言葉は私自身の生きる指針にもなっています」
今年は、遠縁にあたり、詩的で幻想的な作品で知られる画家の難波田(なんばた)史男の没後50年でもある。その作品を、会場のスクリーンに映し出す演出も盛り込んだ。俳優の金田賢一さん、小林綾子さんの朗読もある。
有楽町のマリオン別館にある「I’M A SHOW(アイマショウ)」で。開演は午後3時。問い合わせは、吉岡しげ美オフィス(電話03・5276・9388)へ。(西秀治)=朝日新聞2024年10月16日掲載