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「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」書評 人間性の深いアイロニー示す奇想天外さ

評者: 小澤英実 / 朝⽇新聞掲載:2024年11月02日
全員犯人、だけど被害者、しかも探偵 著者:下村 敦史 出版社:幻冬舎 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784344043305
発売⽇: 2024/08/07
サイズ: 2.5×18.8cm/360p

「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」 [著]下村敦史

 なにしろ、登場人物全員が同姓同名のミステリを書いた作家だ。今作も設定からしてどんでん返し。ある社長の死をめぐり、謎の「ゲームマスター」に呼び出された関係者7人が山中の廃虚に閉じ込められる。そこから連続殺人の幕が上がる……のではなく、犯人だけが助かると通告されて一同は、我こそが犯人だと自供しあう。このデスゲームを生き残る「犯人」はいったい誰なのか。
 タイトルに偽りなく、全員が犯人で被害者で探偵になっていくから驚きだ。だが、これはある意味で、人が背負う役割の本質を突いている。現実世界では「真実はいつもひとつ」ではないし、「被害者」と「加害者」がきれいにわけられない事象も多い。「犯人」になり損なう人たちの姿のほうが、「先生」やら「母」やら、期待された役割になりそこなう自分に親しみぶかい。この奇想天外な推理小説はしかし、「犯人」や人の名前のような一語にはけして集約できない立体的な人間のありように目を向け、社会的動物たる人間性の深いアイロニーを抉(えぐ)り出していると思うのだ。