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「神と銃のアメリカ極右テロリズム」書評 「内戦」の恐れ 誰が大統領でも

評者: 福嶋亮大 / 朝⽇新聞掲載:2024年11月16日
神と銃のアメリカ極右テロリズム 著者:ブルース・ホフマン 出版社:みすず書房 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784622097372
発売⽇: 2024/10/18
サイズ: 19.4×3cm/424p

「神と銃のアメリカ極右テロリズム」 [著]ブルース・ホフマン、ジェイコブ・ウェア

 暴徒化したトランプ支持者による2021年の連邦議会議事堂襲撃を経て、アメリカにおける内戦の可能性が、映画「シビル・ウォー」をはじめ公然と語られるようになった。アメリカ社会の分断は、いずれ国内での長期的な武力闘争に到(いた)るのではないかという懸念が高まっているのだ。
 それは常識的にはありそうもないと思えるが、実際には1970年代以降、アメリカでは極右テロが何度も起こってきた。01年の同時多発テロ事件によって、アルカイダのようなイスラム過激派がテロリストの代表に仕立てられたが、それ以前はむしろ極右の白人至上主義者こそが暴力を煽動(せんどう)したのである。本書は、この暴力とイデオロギーの歴史を丹念に追った警世の書である。
 白人至上主義者の考えでは、アメリカはキリスト教徒の白人男性中心の国家であるべきなのに、間違った方向に進んでいる。ゆえに、彼らは「加速主義」に基づく過激な反政府運動に向かう。つまり、政府を暴力的に転覆し、混乱と無秩序を加速させることが、かえって社会を正す最善の策と考えるのだ。ここには、超保守的であるがゆえに急進的になるという逆転現象がある。
 しかも、極右のテロリストは昔から「一匹狼(おおかみ)型」が多く、リーダー不在の草の根的な抵抗を好んだ。ソーシャルメディアはこの伝統を再興しただけではなく、極右の世界的なつながりも助長し、ゲームのスコアを競う感覚で暴力を行使する若者も生み出した。テロを「劇場化」する極右にとって、銃所持は命をかけても守るべき権利であり、銃規制を不用意に進めれば、それが新たな暴力の火種となるだろう。
 本書は内戦が「まさか」の事態ではなく、民主主義をむしばむソーシャルメディアを背景として、世界一富裕な大国でも起こり得ることを示した。誰が大統領になろうと、国内テロのリスクはなくならないだろう。問題の根はそれほど深い。
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Bruce Hoffman 米外交問題評議会シニアフェロー。著書に『テロリズム』など。Jacob Ware 同リサーチフェロー。