目当てのものを見つけ、顔を輝かせて手を伸ばすひと。これはいったい何だろうと、訝(いぶか)しげに見つめているひと。「これは本なの?」と、気になって質問してくるひと。日々売り場で多くの本を扱っているが、背筋『口に関するアンケート』ほど、お客様の様々な反応が窺(うかが)える商品も珍しい。
それもそのはず。サイズは文庫よりさらに小さくて、厚みもスリム。透明なフィルムでパッキングされており、著者名とタイトル以外、内容を推し量れるものは、口紅の赤が印象的な表紙、そして裏表紙に「口は災いのもと」と記された一文しかないのだから。ところが、そんな規格外の本が売れに売れている。
理由は大きく三つある。ひとつは、“背筋”というユニークな筆名の著者が、実録テイストのホラー小説『近畿地方のある場所について』(KADOKAWA)で大いに話題となった書き手であること。
ふたつ目は、本書とほぼ同時期に著者のもうひとつの新作『穢(けが)れた聖地巡礼について』(同)も発売され、併売が効果的だったこと。
三つ目は、版元の発売前からの情報発信と、書店からの申し込み冊数に応じて異なる販促グッズを用意するなどの細やかな営業戦略だ。
内容については、ある心霊スポットに行った若者たちの証言がひとつひとつ紹介されていくこと、タイトルのとおり“アンケート”が重要な役割を果たすところまでは触れても差し支えないだろう。読み進めていくと、ぞわっとするエピソードに加え、「これはどういう意味なのだろう?」と、いくつかの箇所で引っ掛かりを覚えるに違いない。
終盤、そうした気になる箇所の理由がわかった瞬間の絶望感。ラストにおいて、この話の恐ろしく異様な全体像が頭に浮かび、まさに背筋が寒くなる。
◇
ポプラ社・605円。24年9月刊。6刷18万部。担当者によると、同社文芸サイトで掲載予定だったが、社内で「意外性のある怖さ」「インパクトがある」と評判になり、書籍化を決めたという。=朝日新聞2024年11月30日掲載