急に冷え込みが厳しくなったこのごろ。冬も、本と出会うには絶好の季節です。目利きの4人に、おすすめを1点ずつ挙げてもらいました。(☆=新刊、★=既刊、価格は税込み)
☆「森に帰らなかったカラス」(徳間書店)
動物好きな11歳の少年ミックは、ケガをしたニシコクマルガラスのひなを見つけ、持ち帰って介抱する。ジャックと名付けられたひなは、やがて元気になるが、ふんで家の中を汚すなどのトラブルも続出し、てんやわんや。野生に返そうとしても戻ってきてしまうジャックと、第2次世界大戦後間もないロンドン郊外で、小さな命を大切にして愛したミックや村人たちとの交流の物語。実話に基づいていて、自由や生死について考えるきっかけにもなる=小学校高学年から(ジーン・ウィリス作、山﨑美紀訳、1760円)【翻訳家 さくまゆみこさん】
★「たのしいふゆごもり」(福音館書店)
子グマがお母さんと一緒に、山で木の実やハチミツや魚や綿やキノコを集める。冬にそなえるためだ。家に戻り暖炉をつけておいしい夕食を食べると、昼間子グマと遊んだ友だちのぬいぐるみをお母さんが作ってくれる。夜になって雪が降ってくるが、子グマはぬいぐるみを抱えて、ぬくぬくと眠りにつく。晩秋の野山の美しさと、子グマの満足感が伝わってくる絵本=4歳から(片山令子作、片山健絵、1320円)【翻訳家 さくまゆみこさん】
☆「ゆきのもりのおくりもの」(岩波書店)
いつもひとりぼっちのソフィーはクリスマスの朝、すてきなことに出会えるかもしれないと思って出かけた。すると、あたりはふぶきになってきて、そこにあらわれたヘラジカが白い森へつれていってくれた。そこでちいさなもみの木を見つけたソフィーはいいことを思いつく。画面いっぱいにくり広げられる北欧の美しい自然と幻想的なオーロラの絵に心がひかれた=5歳から(リンデ・ファース文・絵、西村由美訳、2090円)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
★「ナゲキバト」(あすなろ書房)
両親を交通事故で亡くした9歳の少年ハニバルは祖父に引きとられ一緒に暮らしている。ある日ナゲキバトの親鳥を撃ってしまい途方にくれているハニバルに祖父はヒナ鳥が生き残る方法を一緒に考えてくれた。生きることの大切さを折にふれて教えてくれた祖父の過去の秘密が明かされる最後の3行を読み終えた時、衝撃が走った。本書は人から人へと感動が届けられ、今も読み継がれている=小学校高学年から(ラリー・バークダル著、片岡しのぶ訳、1650円)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
☆「ぼくらにできないことはない」(岩波書店)
散らかった背景に、ちょこんとふたりの男の子。宇宙船で「ここ」に着いた彼らは「ぼくらは かんぺき」と言います。変なお隣さんや新しい同級生、今はいないお父さん。転居? 別居? 説明はありませんが、勇ましいセリフと伝わってくる心情のギャップに、現代の子ども像が浮かび上がります。子どもたちが自分の環境を受け入れながら抱く希望の力を、柔らかなユーモアを含んだ絵で描いたスウェーデンの絵本。じっくり味わって=4、5歳から(エーヴァ・リンドストロム作、よこのなな訳、1760円)【絵本評論家 広松由希子さん】
★「おやすみ」(グランまま社)
泥んこになって遊んで、お風呂に入って、晩ごはんをおなかいっぱい食べて、お話と子守唄を聞くうちに、ちゃんと眠たくなって「あしたは なにして あそぼうか」と眠りにつく。心地よいリズム。面白くて気持ちよくておいしくてうれしくて、明日が楽しみになる余韻。寝る前の幸せが全部つまった、平和な赤ちゃん絵本。ずっと手渡していきたい=6カ月から(なかがわりえこ作、やまわきゆりこ絵、968円)【絵本評論家 広松由希子さん】
☆「『植物』をやめた植物たち」(福音館書店)
日々進化するために努力することは本当にだいじだけれど、成長し続けるのってちょっぴり疲れてしまいますよね。この本は、植物にとって一番大切といわれている光合成をやめ、それでもしぶとく生き抜く姿を観察した科学絵本。あるべき姿や常識を手放し、潔く捨てることで新しい道が拓(ひら)ける。こんな生き方もあるんだとはっとさせられ、心がふっと軽くなります=小学校中学年から(末次健司文・写真、1430円)【丸善丸の内本店 兼森理恵さん】
★「びりっかすの神さま」(偕成社)
びりより一番のほうがいい。そう思うのは当然のこと? 始は転校先の教室で、びりの子の周りに現れる、くたびれた背広姿で背中に小さなつばさのある不思議な男を見てしまいます。そのびりっかすの神様を通じていつしかクラスはまとまっていき、一番になるため頑張ることが本当にいいことなのかを真剣に考え始めます。自分の価値観をえいっと脱いで新しい年を迎えるのも、気持ちがいいかもしれませんよ=小学校中学年から(岡田淳作・絵、1320円)【丸善丸の内本店 兼森理恵さん】=朝日新聞2024年11月30日掲載