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「DTOPIA」書評 暴力、人種、性別……問いかける

評者: 山内マリコ / 朝⽇新聞掲載:2025年01月25日
DTOPIA (デートピア) 著者:安堂 ホセ 出版社:河出書房新社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784309039282
発売⽇: 2024/11/01
サイズ: 13.4×19.5cm/160p

「DTOPIA」 [著]安堂ホセ

 恋愛リアリティーショー〈デートピア〉。ミスユニバースをめぐって、〝先進国〟十都市から集められた男たちが競争を繰り広げる。二〇二四年版では舞台のボラ・ボラ島に四十台近いカメラが設置され、同時多発的に起こるドラマをすべて動画配信する。
 この「追跡(トラッキング)システム」のおかげで楽しみ方は無限となった。公式が出す本編は「総集編」に過ぎず、視聴者はデートピアを使って自分たちが見たい景色を見る。そこから疑似BL(ボーイズラブ)に浸ることも可能だし、まじめにフェミニズムについて語ることも可能、という具合。
 やがて語り手はMr.東京にフォーカスしていく。「おまえ」と二人称で呼びかける。参加者からは「キース」と呼ばれ犯罪歴があるらしいが、番組内では無害な感じだった男。あまりに日本人っぽい見た目は、キュートだが病的な感じを受ける。リアクションは仮面でしかなく感情がひとつも載っていない。
 ああ、いるいる、そういうメンズ。それでてっきり、日本人男性の典型を揶揄(やゆ)するストーリーが展開するのかと思った。Mr.ロンドンにもMr.パリにも、同様に厳しい視線が向けられ、白人優位を疑わない傲慢(ごうまん)さが二〇二四年的な価値観でズタズタにされるのかと。
 ところが、これだけ面白そうなショーを用意しておきながら、語り手は早々に優勝者を明かす。さらには自身の素性も。ジェンダーバランスの是正措置として送り込まれたブレイズヘアのギャル「モモ」。日本人の父とポリネシア系フランス人の母のミックスルーツ。十三歳のとき性別違和の兆候があり、キースから危険な施術を受けた過去を持つ。ここから一転、二〇一〇年代に青春期を送ったキースの「追跡」に舵(かじ)を切っていく。
 暴力への問いかけ。東京アンダーグラウンドの生臭さ。人種、性別。地平線まで届きそうなほど振りかぶる。この物語を必要とする人たちに届くだけの射程距離を。
    ◇
あんどう・ほせ 1994年生まれ。本作で芥川賞。2022年のデビュー作『ジャクソンひとり』、2作目『迷彩色の男』も同賞候補作。