高山裕二さん『ロベスピエール 民主主義を信じた「独裁者」』インタビュー 「暴君」が目指した理想
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フランス革命を扱う研究は多い。だが、革命を象徴する最も悪名高い人物の評伝は、意外にも類書が少ない。気鋭の思想史家が、近年の「暴君」像の刷新も反映した2020年代の歴史書をまとめた。
「18世紀後半のフランスは新聞・雑誌やパンフレットが激増し、その結果生まれたのはメディア政治。たびたびデマが流布し、世論も大きく揺れ動きました」
昨日の友は今日の敵。王や貴族、富裕層に対する民衆のルサンチマンを多くの政治家があおり、誰が人民を代表するかをめぐり競い合った。
「王や貴族に代わり人民を代表するに足る者に求められたのは『透明性』です。ロベスピエールのような清廉で弁舌鋭い弁護士は、その役にうってつけの存在でした」
630回もの演説を武器とし、急進的な共和主義者が中心のジャコバン派を率いて「民主的専制」を主導した。
腐敗の事実(らしきもの)は現に存在した。政敵を狙う政治的陰謀も渦巻いていた。
「単なる思い込みや私益ではない。先行する思想家J・J・ルソーの影響下で公共の利益にもとづく政治を実践しようとした政治家でした」
時代の空気がその言葉に力を持たせた。だが、陰謀や暗殺が繰り返される権力闘争の過程で、政治手法はとめどなく過激になっていく。虐殺に次ぐ虐殺。処刑に次ぐ処刑。革命の理想は悲惨な恐怖政治へと至る。1794年、失脚したロベスピエールは処刑され、革命は終わった。
「まじめな人が民主主義の理想を目指すあまり、恐怖政治に行き着いてしまった」
公共の利益のために特権を暴く。代表する者と代表される者の「透明な関係性」が生まれる。だが、人民と政治家が一体化すればするほど、政敵が激しい攻撃対象になる。
「人民には請願や蜂起の権利がある。でも人々の情念をあおり立ててはいけない。エリート主義にかじを切り民意の回路を閉ざすのも間違い。一時的な熱狂でポピュリズムに陥らないように、代表者の側がていねいに向き合う重い責任がある」
歴史は歴史。だが、民主主義への不信や不満が高まる現代政治にも通じる視点だ。=朝日新聞2025年1月25日掲載