司馬遼太郎の命日にちなんだ第28回菜の花忌シンポジウム(司馬遼太郎記念財団主催)が11日、大阪府東大阪市内で開かれ、1320人が聴き入った。

司馬遼太郎賞の贈賞式があり、「日ソ戦争 帝国日本最後の戦い」(中公新書)で受賞した麻田雅文・岩手大准教授が著作について思いを語った。第2次世界大戦末期の1945年8月8日から1カ月ほど続いた日ソ戦争では、都合の悪い情報を無視したり、集団で同調したりする心理的バイアスが顕著だったという。これは現代に通じる問題だとして、「歴史や経験から学べば、現代の問題解決に生かせる。これからも過去と現代をつなぐものを書いていきたい」と抱負を述べた。

シンポジウムでは「『空海の風景』を読む」のテーマで、国際日本文化研究センター教授の磯田道史さん、作家の澤田瞳子さん、宗教学者で相愛大学学長の釈徹宗さん、作家の辻原登さんが語り合った。「空海の風景」は真言宗を開いた平安期の巨人、空海の思想と生涯を描いた司馬の歴史小説だ。
この作品の魅力について、澤田さんは「空海はどんな人なのか。虚心に知ろうとした司馬さんと読み手が一緒に空海を追い求める。今はネット検索で何でも調べられるけれど、本当に知るとは何か。考えるきっかけになる」と話した。
「宗教心や信仰について切れ味鋭く語っている。同じ遣唐使船に乗り、同じ時代を生きた僧の最澄と対比して書くことがモチベーションの一つだったのではないか」と釈さん。辻原さんは「小説の中に常に書き手がいると意識させる書き方。批評的で近代的な小説を作ろうとした。傑作だと思う」と語った。
「空海の風景」の初版刊行は50年前で、雑誌連載は第1次オイルショックの73年から2年9カ月。高度経済成長期が転換した時代だった。「その中、思想について司馬さんは考えたくなり、大きな思想の人を書いたのだと思う。『形而上(けいじじょう)』がこの作品のキーワードだ」。磯田さんはそう話した。(河合真美江)=朝日新聞2025年02月19日掲載
