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鳥トマト「東京最低最悪最高!」 夢のあとさき、令和の東京物語

『東京最低最悪最高!』(1) 鳥トマト〈著〉 小学館 770円

 オムニバス形式による令和の東京物語だ。舞台は大手出版社・青界社(せいかいしゃ)。女性には人権がない家庭で育ったアキは、物価のバカ高い東京でデザイナーとして働き、ついに婚約者を連れて帰省する。ファッション誌担当&スマホ依存の編集者は数字に追われる日々を送り、時短勤務の広告営業はワンオペ育児に限界を感じている。

 傍目(はため)には煌(きら)びやかに見える世界で夢を追い、やがて進む先が見えなくなって、本音を隠して何かに擬態して生きる人たち。そんな彼彼女らの悲哀と心の内が、さまざまな切り口で描かれる。現代の社会課題が色濃く滲(にじ)む内容ながら、エンタメとして楽しめるのはポップな絵柄による。各キャラが押し込めている本音には、現代を生きるあらゆる人に接続するリアリティーがある。その痛みにイタタタとなる部分もあるが、本音をスパークさせるシーンの思い切りの良さが、そんな鬱屈(うっくつ)とした感情を洗い流してくれる。

 「平成プレイボーイの末路」も沁(し)みた。挫折を経験しながらも年齢とキャリアを積み重ね、すわ昇進と思いきや、全てが彼の上位互換のような同年代男が現れて……。天井が見えたことで失われる活力。そんな時、人を奮い立たせるのも、やはり夢なのだなと思った。=朝日新聞2025年3月1日掲載