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「オノ・ヨーコ」書評 マジカルで正直な超自然的存在

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2025年08月02日
オノ・ヨーコ 著者:デヴィッド・シェフ(David Sheff) 出版社:ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784636980363
発売⽇: 2025/06/27
サイズ: 21×3.4cm/422p

「オノ・ヨーコ」 [著]デヴィッド・シェフ

 手のつけようのない本書は「オノ・ヨーコ」の伝記だから仕方ないでしょ。そのヨーコを奇人変人として袋だたきにした誹謗(ひぼう)中傷本ならいくつもある。ヨーコは恐怖心を内に秘め、外に向けては自信ありげに虚勢を張ることに長(た)けているが、そうならざるを得ないのはヨーコが自己に正直であるからで、ジョン・レノンに言わせれば「あまりに本物すぎて、見るものを傷つけてしまう」ということになる。
 そんなヨーコの哲学をもろに受けたジョンはあの「イマジン」と「ギブ・ピース・ア・チャンス」で世界を動かした。だが、世界を震撼(しんかん)させた、あのジョンの射殺事件が起こり、「自己の魂が殺されてしまった」とのヨーコの悲痛な叫びこそが彼女の超音楽でもあった。
 本書の執筆者デヴィッド・シェフがある日やってきて、ヨーコを語れと言う。「そうだなあ、正気と狂気の境目で鬱屈(うっくつ)した気持ちを発散させているヨーコには、パフォーマーやアーティストたちの大規模なネットワークがあった」。僕のことを日本のアンディ・ウォーホルと呼ぶ彼は、さらに僕に語らせる。「ヨーコにとって、とても非科学的なもの、何か信じ難いことは、彼女のアートの中核となる基本的理念だった」と。それに対するヨーコの考えは、「ある意味、私たちよりも巨大な力だから。私はそういうものを相手にしているの、人間が作った力ではなくて」。
 そんなヨーコがある日、ニューヨークから電話をかけてきて「来ない?」と。「無理、ムリ。ヨーコさんがおいでよ」と電話を切って数日後、「あなたが来いと言うから来たわよ」と僕のアトリエにやって来た。まるでコンビニに行くような気分で、その翌日は京都から、翌々日はロスから電話! 彼女の向こう見ずの超人的行動力は、まさに「マジカル・ミステリー・ツアー」だ。ヨーコ自身が超自然的存在なのだ。ジョン・レノンが参ったのはわかる。
    ◇
David Sheff 米国のジャーナリスト。著書に映画化されたベストセラー『ビューティフル・ボーイ』など。