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たけうちホロウ「チハヤリスタート!」 主人公も表現も力強く疾走する

 『チハヤリスタート!』(1)(2) たけうちホロウ〈著〉 芳文社コミックス/FUZコミックス (1)792円、(2)891円

 こどもの時から足の速さだけが取りえだった主人公。ライバルに勝ちたい一心で中高校と陸上競技に打ち込むが、青春のすべてを懸けていたインターハイがコロナ禍で中止になり、目標を見失って精神的に立ち直れず、そのまま8年近くニート生活を送っているところから物語が始まる。その後、元チームメートやライバルたちと再び出会う中で、止まった時計が動き出し、競技への「再(リ)スタート」の光がさしはじめる――。

 と書くと重々しい内容を想像しそうだが、展開はいたってコミカルで、はつらつとして楽しい。なにしろ主人公のキャラクターが天然で明るい(心は弱いけど)。その喜怒哀楽の心の動きを描きながら、マンガの表現も自由に躍動する。マンガを自然に呼吸するかのように、楽しくコマと絵と文字を描き並べ、気持ちの動くままに先のページへと走っていく。そのスタイルが、そのまま主人公のダイナミックな走り方とも重なっている。荒っぽい我流の走法に見えながら、気持ちが入ると、ここぞというところで力強さを発揮し、その秘めたポテンシャルに誰もが期待せずにはいられない。表現と内容が一体となって疾走し盛り上がっていく展開は、じつに爽快だ。=朝日新聞2025年8月2日掲載