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藤原ハル「元気でいてね」 人生の選択を優しく後押しする

『元気でいてね』 藤原ハル〈著〉 祥伝社 858円

 オープニングは、元夫婦が仕事の打ち合わせの席で3年ぶりに偶然再会する場面。そこから焼けぼっくいに火がついて……みたいなベタな恋愛ものかと思ったら全然違った。結婚、離婚、出産、育児、家族、仕事、趣味といった人生の(そこそこ重要な)要素について、しみじみ考えさせられる。

 不妊が一因で離婚した仕事人間の主任女性、仕事と子育ての両立に悩む若手、そのフォローをしつつも割り切れない思いを抱える既婚子なし女性、とある事情により結婚も子供も望めない中途入社の男性。そんな同じ職場で働く人々に、主任の妹の大学研究生、姉妹の母、その元同僚で今は映画評論家のバツイチ女性を加えた多様な人生の断片がオムニバス形式で描かれる。

 自分の選択は正しかったのか。その問いに答えはない。〈それぞれの道には/それぞれの小石が落ちていて/それぞれの花が咲いている〉という語りのとおり、つまずき悩みながらも誰かの一言に救われ、自分なりの幸せを見つけることはある。繊細な感情をすくい取る描写や腑(ふ)に落ちるセリフ、思わず落涙のシーンも多数。さまざまな選択をしてきた人、これからする人の背中を優しく、それでいて力強く押してくれる癒(いや)しと祈りに満ちた物語だ。=朝日新聞2025年8月2日掲載