ISBN: 9784760156313
発売⽇: 2025/05/26
サイズ: 18.8×1.6cm/216p
ISBN: 9784791777037
発売⽇: 2025/03/26
サイズ: 13.2×19cm/256p
「クィアのカナダ旅行記」 [著]水上文/「クィア・レヴィナス」 [著]古怒田望人/いりや
社会の多数派は、生まれた時に割り当てられた性別と「私は男だ」などと自認する性が一致している。この状態をシスジェンダーとよび、そうでない人はトランスジェンダーである。そしてクィアとは、シスジェンダーの異性愛者を「標準」とみなす社会で、LGBTを含め、異物とみなされうる様々な人のことである。
『クィアのカナダ旅行記』の著者はカナダに住む恋人を訪問する。カナダは約20年前から同性婚が合法のLGBTQ先進国、地域にはクィアの人々を前提とした暮らしがある。著者は旅先で白髪のクィアの人に出会い、どんなふうに年を取っていくのかを想像出来ずにいた自分に気づく。
ある日、日本人のレズビアンカップルがカナダで難民認定されたとの報道を知り身につまされる。だが、同時にカナダのクィアたちの苦闘の歴史やパレスチナを巡る亀裂、そして人種差別の現実も知る。異国のクィアコミュニティーの生活と文化が当事者の目線から陰影とともに描かれており、軽い語り口ながら余韻を残す。
『クィア・レヴィナス』は「他者論」の哲学者として知られるレヴィナスに新しい解釈を付け加える試みである。「他者」との関係性を繊細に考え抜くレヴィナスの思想は「冷静な大人の男性」を前提としない哲学ともいわれる。だが、著者はそのレヴィナスにも、無自覚に「異性愛者のシスジェンダー男性」という多数派の視点に囚(とら)われた見落としがあると指摘する。
その上で、レヴィナスの著作に内在するクィアな要素を探し出し、現代を生きるクィアな人々の経験や生につながる思想として読み替えてみせる。たとえば「孤独に老化することが、愛した他者と繫(つな)がる契機となる仕方」を示すという予想外の視点や、他者とのふれ合いを通じ自己のセクシュアリティーを見出(みいだ)すことの豊かさなどが提示される。クィアの経験と生は哲学的思索にも広がりをもたらす。
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みずかみ・あや 文筆家▽こぬた・あさひ 工学院大等非常勤講師(哲学、クィア理論など)。いりや名義でも活動する。