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「作り方を作る」書評 あれもこれも、なぜ面白いのか

評者: 秋山訓子 / 朝⽇新聞掲載:2025年09月06日
作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録 著者:佐藤雅彦 出版社:左右社 ジャンル:アート・建築・デザイン

ISBN: 9784865284751
発売⽇: 2025/07/10
サイズ: 2.7×23cm/320p

「作り方を作る」 [著]佐藤雅彦

 いつの頃からか、「世界観」という言葉が世に出回るようになった。この言葉が好きではなかった。適当に使っている場合が多い気がして。多くは言葉に値しない気がして。安っぽいのだもの!
 この本を読んで初めて理解した。これこそが「世界観」なのだと。
 著者は希代のCMプランナー。「スコーン」「ジャガッツ」「バザールでござーる」等々、「あ、これも!」「え、これも?」という有名作品の数々。「なぜそのCMは面白いのか」を一つずつ「要素還元」した方法論の「ルール」があった。
 たとえば、「やっていることが妙に伝わる」「その理由は『音』だった」、という「音は映像を規定する」。気になる言葉を分析したら濁音だらけだったので濁音を多用した「濁音時代」。「だんご3兄弟」とか。
 「作り方が新しければ、自(おの)ずとできたものは新しい」のだ。ゲームチェンジャー?イノベーター?それどころではない。
 で、「世界観(トーン)」へ。詳しくは本を読んでほしいが、それは著者を「とんでもない場所」に連れて行った。
 思い出したことがある。昔、米国に滞在した時に、宿泊先の個人宅で故郷の味がほしかろうと「白ごはん」を出してくれたのだが、これがおいしくなくて。「味」は日本と同じなのだが、食器がアメリカンで。なぜおいしくなかったのか、この本を読んで納得した。
 一貫して「表現方法」に関心があった著者は、必然的に表現の研究と教育へと進んだ。「アルゴリズム」「捨象」「物語性の発現」、これらの「表現」は「ピタゴラスイッチ」といったテレビ番組などに昇華する。
 世にはびこる、適当な「世界観」を乱発する皆様はこの本で「世界観」を勉強してください。
 蛇足。書評を担当するようになり、私も「書評の作り方」を考えてきた。稚拙ながら、それを今回も使ってみた。「私の経験から」「登場人物になる」。お粗末!
    ◇
さとう・まさひこ 1954年生まれ。東京芸大名誉教授。CMプランナーとして「ポリンキー」などを手がける。