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株式会社ポケモン・著、きのしたちひろ・イラスト「ポケモン生態図鑑」 科学的愛着に満ちた誠実さ

 発売後1カ月で60万部に達したまさにモンスター級ベストセラーだという。想像上の存在であるポケモンを、生物学的な視点で語る唯一無二の図鑑。著者は「株式会社ポケモン」で、執筆者は生物系の博士号を持つ社員。「公式」から供給される「ポケモンの新しい見方」として、子どもにも、保護者にも、その他のファンにも歓迎されたのではないだろうか。

 一読すると、まぎれもなく科学的愛着に満ちた好著だった。学習図鑑を思わせる大項目が立てられ、「ポケモンのすがたや形」の章では、同種でも生息地によって姿が違うこと(「アローラのすがた」など)を、環境への適応として説明する。また「ポケモン同士の関わり」の章では、互いに協力し合ったりだまし合ったりしつつ織りなす、生態系のありようを素描する。

 執筆者が鳥の飛行メカニズムの研究者だったせいか、「ポケモンの移動能力」の章は特に細部に富んでいる。ポケモンの飛び方、泳ぎ方等を、単なる「設定」ではなく、観察の成果として整理し提示するのは、まさに「生物学の図鑑」的だ。

 こういった解説を読んだ子どもたちは、ポケモンを画面の中の「キャラ」ではなく、野生動物のように感じるのではないか。それは本書の意図でもあるようで、末尾には読者にも観察を促す「ポケモンふしぎ発見シート」が添付されている。

 ここまで徹底していくと、ポケモン世界の生物学が、我々の世界と違う部分も逆に際立つ。ポケモン世界では、成長して姿や能力を変えることを「進化」と呼ぶが、我々の世界の生物学では、これは「変態」だ。だから、本書では、本来の「進化」を解説するコラムが設けられている。科学的な視点を楽しむ本だからこそ、こういった誠実さも必要なのだと感じた。

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 小学館・1430円。25年6月刊。5刷76万5千部。「ポケモンファンに限らず男女世代を問わず売れている。ターミナル近くの書店で売り上げが高く、外国人も含め旅行者にも人気のようだ」と担当者。=朝日新聞2025年9月13日掲載