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現代社会を照らす最新研究の成果「考古学の黎明」 上村剛の新書速報!

  1. 『考古学の黎明(れいめい) 最新研究で解き明かす人類史』 小茄子川(こなすかわ)歩、関雄二編著 光文社新書 1430円
  2. 『倫理思考トレーニング』 伊勢田哲治著 ちくま新書 1540円

 なぜ私たちは儚(はかな)くも、いま・ここに存在するのだろう。遠い彼方(かなた)の視点から人間存在を見つめ直すと、つい自分たちの人生の不可思議さに思いを馳(は)せてしまう。今回紹介するのは、そんなふうに心を揺さぶられる2冊である。

 (1)は、考古学の第一線の研究者が集合し、人類史を問い直す。背景にあるのはD・グレーバーとD・ウェングロウの共著『万物の黎明』の衝撃だ。狩猟採集社会から農耕社会を経て、都市や国家が形成され、人類は進歩してきたという通説が2人によって覆された。そこで本書は改めて問う。都市はいつできたのか。国家の起源とは。古墳とは何か。農耕を人類はなぜ始めたのか、などと。30万年の人類史の不可思議を巨視的に問い直すことで、暴力や権力など不在の人間の暮らしぶりが、鮮やかに甦(よみがえ)ってくる。閉塞(へいそく)した現代社会に、遠い過去から差し込む曙光(しょこう)だ。

 我々を照らすのは過去のみならず、未来でもある。宇宙倫理学を先導する著者の(2)は、未来の宇宙人からみた地球生命の「リンリ」を論じて、私たちの倫理観に再考を迫る。阪神の外国人選手と同名の登場人物が、火星や宇宙探査で活躍するSF話が豊富に挿入され、展開も飽きない。彼らの意見対立の様子から、どのようにお互いの理解のズレを直し、協力的な討論を行うかの具体的な方法がわかりやすく示される。現在進行形のネットの不毛な敵対に絶望せず、共に生きることを諦めない人々に向けられた、力強いエールである。=朝日新聞2025年104日掲載