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「パンチラインの言語学」書評 あふれるアニメ、漫画、映画への愛

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2025年10月11日
パンチラインの言語学 著者:川添 愛 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784022520753
発売⽇: 2025/09/19
サイズ: 18.8×1.4cm/200p

「パンチラインの言語学」 [著]川添愛

 私は本書の半分も楽しめていない。この本はアニメ、漫画、映画に出てくる名台詞(めいぜりふ)を素材にして言語学を面白おかしく説明した本、ではない。逆だ。どう見てもそれらの作品に対する著者の熱さが言語学に対する熱量を凌駕(りょうが)している。
 言語学の目で見ると、ほら、こんなとこも楽しめますぜと、例えばテレビ版の「機動戦士ガンダム」で整備士がシャアに向かって「偉い人にはそれがわからんのですよ」と言うのが、劇場版では「偉い人にはそれがわからんのです」となっていて、「よ」がとれることで相手に向かう言葉の圧が弱くなっている、なーんて話がどうも私にはいちいち面白い。
 こうして十八の作品がとりあげられるのだけれど、実は、私は「ガンダム」も「ガラスの仮面」も「ふてほど」も「北斗の拳」も見てないし読んでおらず、共通するのは寂しいことに四作品だけだった。それでもすごい楽しかったのだから、これらの作品をおかずに飯が何杯でもイケるという人は私の倍、いやそれ以上、楽しめるのだろうなあ、きっと。