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森絵都さん「デモクラシーのいろは」 民主主義とは? 戦後の女性が追い求める

森絵都さん

 舞台は1946年の東京だ。GHQによる「民主主義のレッスン」を受けるため、4人の若い女性が邸宅に集められる。彼女たちはもちろん、教師役を引き受けた日系2世のリュウも民主主義とは何かと頭を悩ませ、ともに答えを探していく。

 森さんは「もしかしたら私たちも同じ問いを持っているかもしれない。今に通じる物語になるのでは」と考えたという。

 戦後を書くと決めてから、それはすなわち戦争を書くということだと気がついた。当時の一般市民の声を探し、自分の内にためていった。

 集められた女性たちは、出自も経歴も様々だ。亡くした家族の数も異なり、経験したのは「同じ戦争」ではなかった。そのため彼女たちは傷を共有できず孤独だったが、ともに過ごす中でつながっていく。

 「後半になるほど、どんどんみんながしゃべるようになって、個性を発揮していった」

 リュウは、彼女たちに「与えられた物語を信じちゃいけない」「民主主義の基本は、君たちが、自分自身で考えた物語を生きること」と説く。リュウの目に日本国民は、戦時中は国のプロパガンダに踊らされて戦争を推し進め、戦いに敗れると今度はアメリカ由来の新しいプロパガンダを心のよりどころにしているように映っていたからだ。

 森さんは「そのシーンを書いている時に、リュウが急にそういうことを言った。自分の中にすごく響くものがあって、物語の裏テーマになるかもしれないと思った」と振り返る。

 彼女たちは、レッスンを受けるうちに自ら学び、考えて行動するようになる。だが、一歩外に出れば「女の分際で」と煙たがられる。森さんは物語を構想していた時、ここでつまずいた。「彼女たちが変わっても、日本の社会が変わらなければ民主主義の使い道はない。どうすれば彼女たちはもっと自由に羽ばたいていけるのか」。悩んだ末に生まれたのが、彼女たちの爽快感あふれる物語だった。

 「この小説はある種のファンタジー」だと森さんは話す。史料でたどる同時代は苦しい話ばかりで「ハッピーエンド」などなかった。「だからこそ、せめてこの小説の中では彼女たちを幸せにしてあげたかったし、ある種の仕返しをさせてあげたかった」

 真正面から戦争を扱ったのは初めてだった。書き上げたうれしさより、重たいものが心に残っている。「過去に起こった大きな不幸の爪痕のようなものだと思う」

 民主主義の究極の役割は、「暴力による決定を防ぐこと」だと感じている。「また何かが起こったら、誰かが私たちに物語を押しつけてくるかもしれない。その時に、本当に正しいのか立ち止まって考えることは、これからの時代を生きていく上でもとても大事なことだなと思います」(堀越理菜)=朝日新聞2025年10月15日掲載